No.86 「パーシバル ―無知と純粋さで聖杯にたどり着く」

榎本海月の連載

無知故に

パーシバルは円卓の騎士であり、聖杯探索を扱った初期の作品においては聖杯を得る偉業をなすとして描かれる人物のひとりである。やがてのちに主流になる物語ではその役をガラハッドに奪われるが、パーシバルは引き続き聖杯探索の重要人物であり続ける。
パーシバルはペリノア王という円卓の騎士の子とされる。ペリノア王は非常に恋多き男だったので彼以外にも幾人もの子をもうけたが、パーシバルは他の兄弟とは別れて育てられた。これは、ペリノア王が無惨な死を遂げた(かつて自分が殺した相手の子、円卓の騎士ガウェインに殺されてしまった)ことから、パーシバルの母が彼を騎士にだけはするまいと考えたためだ。パーシバルは森の奥で騎士のことなど何も知らず、キリスト教徒としての正しい教えだけを教えられて育った。
ところが、パーシバルは探索の途中だった円卓の騎士に出会い、その美しさや存在にすっかり魅了されてしまい、騎士を目指すことにした。
このことを嘆いた彼の母親は死んでしまったし、また無知であったパーシバルは旅の途中やアーサー王の宮廷で数々のトラブル・非礼行為を巻き起こすことになる。しかし彼の騎士としての素質を惜しんだ人々が騎士としての教育を施し、またパーシバル自身も失敗から学んだので、彼はゆっくりと、そして着実に立派な騎士になっていく。
そんなパーシバルは二度、カーボネック城を訪れている。一度目の時に聖杯探索を成功させる機会はあったが、この頃には既に騎士としての教育を受けていたことがむしろ仇になって、試練(聖杯と聖槍が現れた時にそれがなんなのか素直に問わなければならなかった)に失敗してしまう。しかし二度目では傷に苦しむ漁夫王のもとに聖杯を出現させてその傷を癒す。こうして聖杯探索は成功し、パーシバルは聖杯騎士団を率いるカーボネック城の主人になるのだった。

純粋さ故に

パーシバルの物語は貴種流離譚の典型である。優れた血筋、優れた才能を秘めながら、教育を施されていないためにたびたび失敗をする。しかし教えを乞うて素直に吸収し、また失敗に学ぶことで、やがて立派な人物になるわけだ。
彼は数々のトラブルも起こすが、少年時代の純粋さを最後まで失わなかったので、聖者として聖杯探索を成功するに至る。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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