No.85 「漁夫王(ペラム王) ―聖杯探索のキーマン」

榎本海月の連載

特別な血筋の人

漁夫王はカーボネック城という、普通には訪れることができない特別な城の主人だった男だ。アーサー王伝説における主要パート、聖杯探索のキーになる重要人物でもあり、前回登場したペラム王と同一人物である。
彼は聖書でキリストを埋葬したとされる「アリマタヤのヨセフ」の子孫であり、キリストを刺した聖槍と、その血を受けた聖杯を受け継ぐものでもあった。カーボネック城が不思議な存在だったのもそのせいだろう。彼の弟ガーロンも、姿を消す魔法だったり、倒した相手を不調のままでいさせる力(回復するにはガーロンの血が必要)などを持っていた。
ところがそのガーロンがカーボネック城の「城内不戦」の掟を破ったベイリンによって殺されたので王は激怒し、ベイリンを襲い、逆に聖槍で刺された。王の城と王国は崩壊した、聖杯も失われたようだ……というのは既に紹介した通りだ。
これは、王と城および王国が不思議な繋がりを持っており、王が聖槍で不治の傷を受けたので、城と王国も傷ついた、ということであるらしい。ここからもわかる通り、カーボネック城はとても現世の存在とは思われない。異界の存在と考えたほうがいいだろう。
ともあれ、命は助かったが碌に歩けなくなった王は、日がな一日釣りをして過ごすようになった。「漁夫王」の名はここから来ている。彼は癒えることのない傷を抱えてその後の人生を過ごす。
ただ、希望はあった。ベイリンが起こした悲劇から十数年後、アーサー王の円卓の騎士たちが聖杯探索の旅に出る。騎士たちはまだ知らないが、聖杯を探すということは最終的にカーボネック城へたどり着き、ベイリンがもたらした傷を癒すということに他ならないのだ……。

救われるべき男

漁夫王は現実に存在した王や騎士というよりはより神や妖精に近い存在であった。また、アーサー王伝説と聖書を結ぶ橋渡しの役を果たすキャラクターでもある。だからといって、彼が神の如き力を持っているわけではない。むしろ聖杯の継承者でありながら自分自身も傲慢さから聖杯を見出せないエピソードがあるなど、ベイリンと同じく過ちによって物語のきっかけを作ってしまうキャラクターといえる。このような哀れな男を救うことは、英雄の振る舞いとして相応しいことといえよう。
また、いくつかの物語では聖杯探索の成功者は漁夫王と血が繋がっているとされ、ある種の物語パターンを感じさせるところがある。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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