弟に従い
ケイもまた円卓の騎士のひとりだ。しかし、彼のポジションはランスロットやガウェインとはかなり違う。平たくいえば武勇や勇敢のエピソードが少ないのである。その代わりに、「まず最初にケイが立ち上がって強敵にやられ、次に主役の騎士が現れる」というパターンが多い。人格面でも毒舌や相手をからかうような振る舞いが目立ち、人格者とは言い難い人である。
では、ケイは円卓の騎士の中では見るべきところのない人物であるのだろうか。そんなことはない。彼は円卓の騎士でも有数の「美味しい」ポジションなのである。
彼はエスターという騎士の子だ。ケイには血の繋がらない弟がいる。それがアーサーだ。ケイは未来の主君の兄として幼少期を過ごしたのである。
そのアーサーが王者の剣を抜いた時、真っ先に相談したのがケイだ。しかしケイも困ってしまった。どうしたものかと思っているうちに父エスターに問われ、ケイは咄嗟に自分が剣を抜いたかのように振る舞ってしまう。しかしエスターはすぐに嘘を見抜き、アーサーこそが王者の剣を抜いた未来のブリテン王だと察する。この日から、ケイは弟を主君として迎えることになったのだ。
以後、ケイはアーサーの司厨長として彼に忠実に仕え続けた。これは現代日本の感覚で言えばコック長だが、中世ヨーロッパの感覚ではもっと責任が大きい。祝宴や集まりを取り仕切り、宮廷の空気を円滑にする仕事であるからだ。道化的な性格も相まって、ケイの存在こそがアーラー王の宮廷における潤滑油の役割をしていたわけで、弟のためにそれができるというのは並大抵のことではない。
縁の下の力持ち
ケイは縁の下の力持ち的な人物である。それも、一見して人を助けているとわかるタイプではない。時に嫌われたり下に見られたりしながら、密かに人を救うタイプだ。弟の下に着くという体験が彼をそうさせたのだろうか。それとも天性のものだろうか。ともあれ、このようなキャラクターをうまく描写できると、大いに人気が出る。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。