「太陽の騎士」
ランスロットが「湖の騎士」であるならば、ガウェインは「太陽の騎士」と呼ばれた男だ。これは彼が持っている不思議な力から来ているものとされる。ガウェインの力は正午に向けて増し、夜に近づくごとに衰えた、という。これはアーサー王伝説のバックボーンであるケルト神話の名残りであるとされた。
ガウェインはかつてアーサー王と戦ったロット王の息子だ。彼には幾人も優れた騎士の兄弟がいて、円卓の騎士にはある種の「ガウェイン派閥」があった。彼らのその母がアーサーの姉だったので、甥という関係でもある。
ガウェインには有名なエピソードがいくつもある(というよりも、まずそれらの物語があり、アーサー王伝説に吸収されたのだろうが)。その中から「緑の騎士」の事件を紹介する。
アーサー王の宮廷に突然現れた全身緑色の姿をした騎士が、「私の首を斧ではねろ。1年後、その騎士の首を私がはねる」と挑戦を仕掛けてきた。これを受けたガウェインは見事に騎士の首をはねたが、騎士は悠然と立ち去る。1年後、反撃を受けるために緑の騎士の城を探すガウェインは、立ち寄った城で三日を過ごし、緑の騎士の前に立つ。その斧は彼の首をはねなかったが、傷は負わせた。それはガウェインが密かに三つの試練を受け、うちひとつの試練ではしくじったことを意味している。ガウェインは自らの弱さを恥じたが、緑の騎士も、そしてアーサーも、その弱さを認める勇気をこそ褒めたという。
しかし栄光の日々も過ぎ去り、やがて円卓に破滅が訪れる。王妃との不倫を暴露されたランスロットは円卓の騎士を幾人も殺して逃げた。しかもその途中でガウェィンの弟たちが殺されてしまった(うち一人は不倫暴露の張本人であった)のだ。
怒るガウェィンはアーサーと共にランスロットを攻めるが、その背後でモードレッドが反旗を翻す。ガウェィンは先陣としてブリテンに戻るが、その戦いの中で倒れる。悲劇的なことに、モードレッドはアーサーの子であるとともにガウェィンの異母弟(ガウェィンの母がアーサーとの間に作った子供)であったのだ……。
板挟みの果てに
ランスロットをロマンスに生きた騎士の典型とするなら、ガウェィンは血筋や生まれと己の信念・信条の間で板挟みになった騎士の典型と言えるだろう。彼はアーサーの甥として、高貴な立場として誉れ高く振る舞わねばならなかったが、一方で弟たちを守る長男としての立場もあった。しかし個人としてはランスロットに友情を感じ、また緑の騎士のエピソードで危険な試練に堂々と挑んだように、一途で剛毅な性格でもあった。
このような板挟みの果てに、ガウェインはランスロットへの義憤を抑えられず(誉れ高い騎士として不義を許さないのも、弟の仇を打つのも当然のことだ)にかつての友と戦い、しかしそのせいでモードレッドの謀反も誘発したし、ランスロットと和解することもできなかった。かくしてブリテンの破滅を招いた後悔はいかばかりか。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。