No.78 「ルキウス ―アーサーの敵は架空の皇帝」

榎本海月の連載

敵役としてのローマ皇帝

ルキウスはアーサー王伝説に登場するローマ皇帝であり、その物語の前半クライマックスを飾る敵役である。
彼が登場するのは、アーサーがブリテン王国の内紛を治めて平和が訪れた直後のことだ。もともとローマ帝国の支配下にあったブリテンに統一政権が立ったということで、ルキウスの使者が改めてアーサー王の宮廷に現れ、臣従を要求したのである。
この要求に対して配下の諸侯は大いに憤ったが、アーサーはあくまで冷静に、礼儀を尽くして使者を返した。しかしローマへの臣従は拒否した。ルキウスはこれに激怒し、結局ブリテンとローマは戦わざるを得なくなって、アーサーは大陸への遠征に出発したのである。
ブリテンの同盟国であるフランス(ガリア)を攻撃するルキウスに、アーサーは使者を送ってあくまで平和裡に解決しようとするがうまくいかず、ついに両軍はぶつかり合うことになった。この時、ローマ帝国は巨人を先頭に立てて攻撃を仕掛け(この時代の大陸には巨人がいたということになっているらしく、アーサーはルキウスと戦う前にも巨人と遭遇して討ち果たしている)、ブリテン軍は大いに苦戦した。
しかしアーサーは巨人の足を斬ってひざまづかせて倒すなど活躍し、ついにはルキウスと一騎討ちに持ち込んだ。ルキウスの鋭い一撃がアーサーの顔に傷をつけるも、反撃のエクスカリバーが皇帝の頭を断ち割った……こうしてブリテン軍はローマ帝国を打ち破り、意気揚々と帰っていったのである。

架空の人物!?

……と、ここまで紹介しておいてなんであるが、ルキウスは架空の人物である。歴代のローマ皇帝の中に彼の存在を見出すことはできない。そもそも、アーサーが活躍したとされる時代にはすでにローマ帝国は東西に分裂しているのだ。しかしルキウスは統一されたローマ皇帝のように描かれている。これはおかしい。
つまり、ルキウスはアーサーの栄光を輝かしいものとして描写するために、半ば無理やり作り上げられた登場人物であるわけだ。キャラクターの強さや成功を描くために、強くて説得力のある敵役を用意する……というのは参考にすべき手法であろう。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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