No.77 「アーサー王 ―騎士道物語の典型き」

榎本海月の連載

英雄の数奇な一生

アーサー王伝説はいわゆる騎士道伝説(騎士が怪物や強敵を倒し、女性や弱いものを助けて、偉大な功績を残す物語)の典型例とされるイギリスの伝説だ。史実をベースに、さまざまな物語がまとめられる形で成立したもので、後世にも多様なアレンジがされたため、バリエーションは実に豊富だ。
伝説において主役を務めるアーサー・ペンドラゴンは、ブリテン王ウーサーの子である。ウーサーは魔法使いマーリンの力を借りて貴婦人と一夜の契りを結び、二人の間に生まれた子はマーリンに委ねられた。
アーサーはある騎士の子として育てられたが、「抜いたものがブリテンの王になる」と予言された王者の剣(有名なエクスカリバーとは別とするのが普通)を抜いてしまったことから、戦乱に揺れるブリテン統一のために挙兵することになる。見事にブリテン統一を達成したアーサーは続いて大陸へ遠征し、巨人退治やローマ皇帝ルキウスとの激闘などの試練を潜り抜け、ついにはローマ皇帝として戴冠するに至った。その元には「円卓の騎士」と呼ばれる優れた騎士たちが集った。
だいたいここまでがアーサー王伝説の前半というべき物語で、ここから彼の出番はグッと減る。物語のメインテーマが円卓の騎士たちによる聖杯探索に移るからだ。王城に腰を据えたアーサーは物語にあまり顔を出さなくなるが、一方で彼の妻グィネビアと騎士ランスロットの不義の物語が進んでいく。
そして聖杯の発見を経て物語はクライマックスを迎える。グィネビアとランスロットの不倫が明らかになって優れた騎士たちが幾人も失われ、さらにアーサーの子であるモードレッドが反旗を翻す。アーサーは我が子と相打ちになり、小舟に乗せられてアヴァロン島へ去っていった……。

テンプレートとして

アーサーは英雄的物語のテンプレートのような人だ。高貴な血を引き、特別な生まれ方をし、特別な武器に選ばれたからこそ英雄になる。偉業を為すが、やがて身内の裏切りによって悲劇的な死を迎えてしまう。しかしその死はあやふやだ(それゆえに人々は英雄の不死性を信じた)。みなさんが物語の中で絵に描いたような英雄伝説を登場させたい場合、まずサンプルにするべきはアーサー王であろう。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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