No.76 「ダンテ ―政治への挫折と『神曲』」

榎本海月の連載

政治運動に挫折し

ダンテ・アリギエーリはイタリア最大の詩人とさえ呼ばれるルネサンス期の人物で、『神曲』の著者としてよく知られている。
フィレンツェ小貴族の家に生まれた若き日の彼は文学に親しむ一方で、フィレンツェの市政にも深く関わっている。彼の時代(メディチ家が台頭する前の13世期末)、フィレンツェは共和国の自立を訴える白党とローマ教皇に接近する黒党に分かれて対立していた。ダンテは白党に属していたが実質的なクーデターで故郷を追われてしまう。
以後、ダンテは故郷への帰還を画策しつつ各地を放浪し、その中で『神曲』をはじめとする作品を残した。彼は中世の文学や神学などの伝統を総括する一方で古代ギリシャの長編叙事詩のエッセンスも受け継いで(『神曲』が主人公ダンテをローマの詩人ウェルギリウスが導く構成になっていることからもわかる)、ヨーロッパ文学史に不滅の功績を残すに至ったのである。

ベアトリーチェの正体は?

ダンテの『神曲』は詩人ダンテが地獄、煉獄、天国といったあの世の世界を旅する物語だが、その中で天国を導くキャラクターとしてベアトリーチェという女性が登場する。実はこの人物の正体について2つの説があるのをご存知だろうか。
1つにはあくまで理想的な、象徴的なキャラクターとして描いたのだという説。そしてもう1つは、彼が実際に出会っていた女性「ビーチェ」がモデルになったのだという説である。どちらが真実かはわからない。ただ、ベアトリーチェは他の詩にも登場し、それによるとダンテは9歳の終わりごろにほぼ同年代の彼女と出会い、9年後に街で再会するも会釈するだけで、その後も大した交流はないままに彼女は亡くなった、という。
もし本当にこのような関係性の女性がいて、その人を物語のヒロイン、愛の象徴としたのであれば、ダンテはどんな思いでそのようにしたのだろうか。大詩人の気持ちを想像しようとしてみることは、キャラクター作りにも大いに役立つ筈だ。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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