破滅を訴え、自らも破滅し
サヴォナローラはイタリア北部の都市、フェラーラに生まれた修道士である。彼は世紀末の時代に人々を扇動し、大事件を起こした人物として知られている。
ドミニコ会で神学を学んだ後、フィレンツェに移ってサン・マルコ大聖堂院長となったサヴォナローラは、非常に改革的な姿勢を打ち出した。すなわち、社会がいかに腐敗しているか、教会が堕落しているかを訴え、破滅を予言し、悔い改めるように求めたのである。この批判の対象となったのがフィレンツェの支配者である貴族、メディチ家であった、
しかもメディチ家にとっては折り悪しく、「破滅」が来てしまった。フランス王シャルル8世がイタリアに攻め込んできたのである。
この機に乗じてサヴォナローラはメディチ家を追放し、フランスともうまく外交関係を作り、フィレンツェを自らが支配する神権国家に変えてしまった……というわけだ。
ところが、サヴォナローラは革命の火を放つことは上手くとも、統治能力のある人ではなかったようだ。禁欲的姿勢を強く打ち出し、異教の本や贅沢品などを焼いたのはともかく、教皇と対決する姿勢を見せたのがよくなかった。結果、フィレンツェ内でサヴォナローラの支持者と教皇の支持者が激励に対立してしまう。
破滅のきっかけになったのは、教皇派から持ち込まれた「火の審判」による対決であった。サヴォナローラが真に神の加護を受けているなら火を受けても大丈夫なはずということで持ち込まれた対決だが、これが教皇派が直前で怖気付いたらしく中止になった。そして、このことが人々の失望を招き、暴徒を生じさせ、そして何か誤解があったのかサヴォナローラこそが暴徒の怒りを買い、ついには処刑へ追い込まれてしまったのである。
危機の時代に
危機の時代、宗教者が人々を扇動し、大事件を引き起こしてしまうのは古今東西に見られる現象ではある。
サヴォナローラの1件もそのひとつであり、彼の絶頂は数年のことであったが、美術や学問が盛んなルネサンス期、そしてメディチ家の庇護のもと多くの芸術家たちが才能を花開かせたフィレンツェでの出来事だけに、さまざまな影響を与えたようだ。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。