No.72 「パラケルスス ―錬金術の代表者」

榎本海月の連載

錬金術師として、医者として

ルネサンス期の人であるパラケルススは、しばしばフィクションの中では魔術師としても描かれる人物である。というのも、彼は錬金術の研究において名を残したからだ。しかし、第一には医学者として知られている。本名はフィリップス・アウレオールス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイム。「パラケルスス」は「フォン・ホーエンハイム」をギリシャ風に洒落て呼んだ通称であるという。
スイスに生まれたパラケルススはイタリアの大学で医学を学んだ後、その人生のほとんどを放浪の中に暮らすことになる。若き日にはヨーロッパ各地どころか近東地域にまで足を伸ばして学問に励み、スイスの都市バーゼルで大学教授になったものの、落ち着けず離れた後はあちこちを彷徨った。
ところが、安定した拠点を持たなかったにもかかわらず、パラケルススは大量と言ってよい著作を残している。その分野は医学や錬金術(パラケルススは錬金術で大事なのは金を作ることではなく人々を癒す薬を作ることだと主張したとされる)はもちろんのこと、哲学や神学にまで及んだ……とはいえ、当時は現在とは比べものにならないほどこれらの学問が近かった時代ではある。
彼が残した研究は後世の医学に大きな影響を与えた。

放浪の人

パラケルススはなぜ安住の地を見つけられなかったのか。史実としては、それは彼の、時に「戦闘的」とさえ言われる精神性に原因があったようだ。パラケルススは既存権威に挑戦し、古い医学書を焼くことさえあった。それだけの信念があり、人々を救うという使命感もあったのだろうが、そんなことをすれば揉めるのも当然である。
フィクションなら別の理由を考えてもいいかもしれない。彼は研究や実験のために必要な何かを探している、というのはどうだろうか。あるいは、何者かに狙われているから逃げざるを得なかった、というのもいいかもしれない。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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