No.71 「ミケランジェロ ―巨大な天才」

榎本海月の連載

巨大な天才

フルネームはミケランジェロ・ディ・ロドヴィーコ・ブオナローティ・シモーニ。万能の人、万能の天才と呼ばれるレオナルドに対して、巨大な天才と称されるのがミケランジェロである。彫刻家、画家、建築家として活動した一方で、詩人としても名を残しており、レオナルドほどではないものの多才の人であった。
レオナルドほどでは……と言ったが、実のところこの時代の芸術家としてはミケランジェロおよび彼の後に出たラファエッロの方が高く評価されがちで、後世への影響はともかく芸術そのものの評価ではレオナルドは一歩譲るようだ。
さて、そのミケランジェロはフィレンツェの小貴族血筋に生まれた。当初は画家としての修業を始めたが、やがてフィレンツェの最大権力者であるメディチ家に見出されて彫刻を学ぶようになる。以後、自分の本分は彫刻と定めたようだ。
有名な作品には事欠かない。ローマで作った「ピエタ(磔から下ろされたキリストを抱くマリアの彫刻)」、フィレンツェに戻って手がけた巨大なダビデ像、そしてローマに呼び戻されて描いたシスティーナ礼拝堂の天井画及び「最後の審判」などなど。ローマとフィレンツェの間を往復しながら作品を作っていた時期が長いようだ。
この時代の芸術家はおおむねそうなのだろうが、ミケランジェロはパトロンのメディチ家や他の有力者、あるいは金銭を要求する父親などに翻弄され、必ずしも芸術にだけ集中できたわけではないようだ。しかし、そのような苦悩を作品に込めたからかこそ、後々まで残る名作になったともいう。
また、当時の画家や彫刻家は個人で作品を作るのではなく、工房を率いて集団で作品を作る職人という色合いが強かった。だがミケランジェロを一つの区切りとして、職人ではなく芸術家として見られるようになったとされる。

未完成の作品

ミケランジェロとレオナルドには面白い話がある。二人が競作をする機会があったのだ。フィレンツェ政庁舎の大会議室に、ミケランジェロは『カッシーナの戦い』を、レオナルドは『アンギアリの戦い』を、とそれぞれ有名な合戦にまつわる絵を描く予定だったのだ。ところが、両者とも取り掛かりはしたものの、ミケランジェロはローマに呼ばれ、レオナルドは作成がうまくいかず断念し、両者中断。しばらくの間、この会議室の壁面には未完成の絵が二つあった。二人の絵が完成されていたらどうなっただろうか? あるいは未完成であることに何か意味があるのか? 想像してみるのも面白い。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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