No.68 「イシス」

榎本海月の連載

強い女性

イシスはオシリスの妻にして兄弟であり、セトとも兄弟関係にある古代エジプトの神である。オシリスとの間にホルスを生み、彼がエジプトの支配者になるのを強力にバックアップした。
神話におけるイシスの最初の役割は妻としてオシリスを支えるものだった。そもそも「椅子」(玉座のこととされ、王を支える存在であることを暗示している)を意味する名前を持つ彼女は、王である夫をサポートして働き、人間たちのために結婚制度を整えるなどした。
しかし、そのオシリスがセトによって殺害されると、彼女は別の顔を見せるようになる。それは偉大な魔術師としての、そして狡猾な策略家としての顔だ。彼女は殺されたオシリスの亡骸を求めて各地を旅し、さらには他の神々の力を借りつつもオシリスを甦らせるという偉業をなすのだ。ホルスがセトを倒すにあたっても、イシスの魔術と智略がものをいっている。
さらにイシスはエジプト神話全体の主神であるラーさえも智略のターゲットにしている。毒蛇を作り出してラーを噛ませ、「治療して欲しければ真の名前を明かせ」と迫ったのだ。エジプト神話の世界観では真の名前を知られると力を奪われてしまうのでラーは拒否したが、ついに追い詰められて明かさざるを得なかった。イシスはラーの力をホルスに与えさせたので、ホルスは太陽をも象徴する強力な神となった、という話である。

イシスと秘儀

魔術の神としてのイシス信仰は、古代エジプト時代どころかその後に栄えた古代ローマ帝国の時代にまで残った。ローマでは知識階級や政治家などに侵攻され、そのローマが滅んだ後にも色々な宗教結社がその秘儀を受け継いだという。「古い時代の女神の儀式を継承する魔術師たち、神官たち」というのはなかなかロマンのある設定だと思うのだが、いかがだろうか。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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