都市の成長とともに拡大する神
アモンもまたラーと同じくエジプトで広く信仰された神である。しばしばラーと習合、つまりまとめた存在とみなされ、「アモン=ラー」と呼ばれた。
もともとアモンはエジプトの都市テーベ周辺で信仰されていた神で、「隠れたもの」と呼ばれる天空の神だったようだが、それ以上詳しいことはよくわからない。しかし、テーベがエジプト全体の中心になるような強大な存在へ成長していくに従って、そのテーベで信仰されるアモンも変わっていく。
彼はさまざまな神々と習合していったのである。大気の神シュウ、生殖と豊穣の神ミンとクヌム、そして創世神アトゥムおよび同一視される太陽神ラー。これらの神々と結びついた存在とみなされたアモンは、ある意味エジプト最強の存在となっていったのだ。
どうしてそうなったのか。これはアモンの特性がひとつの原因だったと考えられている。彼は「隠れたもの」、つまり正体不明の存在であった。だから、いろいろな神々と「同じもの」とみなせたのである。正体がないからなんでも飲み込めた(人間側からすればなんでもくっつけられて都合が良かった)わけだ。
このアモン信仰は長く続いたが、一時期退けられたことがある。それが次回紹介するアテン信仰が盛んだった数年のことだ……。
謎の存在ゆえに
「正体不明だから人間にとって都合がいい神」というのは、異世界の設定を作るときになかなか「使える」要素である。たとえば「どんどん勢力を拡大していく帝国の主神」であったり、「野心家の主人公が都合のいい宗教をでっち上げる」というのはどうだろう。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。