No.53 「アテナ ―スマートな戦神」

榎本海月の連載

アテナイの守護神

アテナはオリンポス12神に数えられる古代ギリシャの戦神である。
彼女はギリシャ最大の都市であるアテナイ(アテネ)の守護神としてよく知られていた。その由緒として、「アテナはかつて海神ポセイドンとアテナイの権利を求めて争ったことがある。その時、ポセイドンは馬(あるいは塩水の泉)を作り出したが、アテナはオリーブの木を出し、有用なものを作ったアテネの勝ちとなった」という話が知られている。
アテナの誕生にまつわる物語もドラマチックだ。彼女はゼウスと思慮の女神メティスの間の子だが、生まれに先立って「父の座を奪う」という予言をされた。自分自身の行いをなぞるような予言に、ゼウスは「腹の子ごとメティスを飲み込む」ことで問題を解決しようとした。ところが急に頭が痛くなり、鍛冶の神ヘファイストスに命じて自らの頭を割らせてみると、そこから完全武装かつ成人した姿のアテナが生まれた、という。
この物語のせいか、アテナは基本的に槍や盾、甲冑を身に着けた姿で描かれる。また、その盾にはメドゥーサの顔が飾られているのが定番だ。
これだけ聞くとただ強く恐ろしいだけの神に思えなくもないが、アテナは知恵を重んじる神でもあった。彼女の聖獣として知られるのはフクロウであるが、これは同時に知恵の象徴でもあった。アテナは技術や工芸、音楽(フルートの発明はアテナによるという)を守護し、またギリシャ神話でもオデュッセウスを始めとする英雄たちに知恵や策略を授けてその冒険を助けている。

スマートな戦神

戦う神、いくさの神というとどうしても乱暴で血なまぐさいイメージがあるかもしれない。しかしアテナはそうではなく、知恵によって強敵を倒すことを良しとする神だ。オリュンポス12神には軍神が2人いるが、ギリシャの人には乱暴なアレスではなくスマートなアテナが好まれた。これはアテナイの守護者だったからという理由もあるだろうが、人々の好みにそのスマートさが適合したということもあったのかもしれない。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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