No.50 「ゼウス ―偉大なる神々の父」

榎本海月の連載

偉大なる神々の父

ゼウスはギリシャ神話の主神である。その名前のルーツにあった意味は「天空」「輝き」であったといい、転じて天気や気象全般がその権能のうちであると考えられた。特に雷の神として名高い。
ゼウスは当時の主神であったクロノスから生まれたが父神を打ち倒し、その地位を奪った――というのは前回紹介したとおり。ゼウスは父のあとにはティタンと呼ばれる巨人とも戦うことになったが、祖母にあたるガイアの忠告に従って冥府に封印されていたキクロプス(ひとつ目巨人)・ヘカトンケイル(百腕巨人)と呼ばれるものたちを解き放つことで戦いに勝利した。新たな秩序が回復された世界において、ハデスが冥府を、ポセイドンが海を、そしてゼウスが天を支配することになった。
以後の世界において、ゼウスは偉大な父、世界と人類の庇護者として立ち振る舞う。彼が世界を見守るからこそ正義は守られ、偽りの誓いは罰せられ、人々は安心して暮らす事ができるのである。財産が守られるのも、豊かな実りがもたらされるのも、ゼウスが天にあったればこそだ。
――その一方で、個人としてのゼウスはなかなか問題のある人物として神話に登場する。なにしろ多情なのだ。正妻ヘラ以外にも数々の女神及び人間の女性と関係を持ち、無数の子どもたちを作る。それだけで済めばいいのだが、ヘラが実に嫉妬深い女性で、彼女の怒りが相手の女性や子どもたちに向くからたびたび事件が起きた。以前紹介したヘラクレスなどは、まさにゼウスの勝手とヘラの嫉妬に翻弄される人生を送った人だ。物語としては面白いが、実際に人間の立場に立ったらたまったものではない。

「ゼウスの子」たち

どうして「ゼウスの子」が神話に溢れたのか。いろいろな理由が考えられる。たとえば、神話が取りまとめられる中で、いろいろな物語がゼウスのものとして統一され、結果として複数の恋人と子を持つことになったのではないか(日本神話のオオクニヌシなども同じ経緯をたどったと考えられる)。あるいは、ゼウスの存在感があまりにも大きすぎるせいで、皆が「自分の家系はゼウスに連なる」と主張したからこうなったとも考えられる。ゼウス本人に聞いてみたらなんと答えるだろうか?


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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