No.49 「クロノス ―因果応報を受けた神」

榎本海月の連載

父を倒し、子に倒され

ギリシャ神話において2番目の主神に位置づけられる農耕神。有名なゼウスは彼の息子にあたる。
そもそもギリシャ神話での天地創造は、「まずカオス(混沌)があった」と語る。そこにガイア(大地母神)が生まれてウラノス(天空神)を産み、両者からティタンと呼ばれる神々と、怪物たちが誕生した。そのティタンの末子としてクロノスがいたのである。
ウラノスは己の子どもたちを敵と見た。だから冥府に閉じ込めてしまったのだが、これに怒ったのがガイアである。クロノスに大鎌を与え、ウラノスの性器を切り落とさせてしまった。これによってクロノスこそが新たな神々のリーダーとなったのである。
ところが運命は皮肉なもので、そのクロノスも「やがて自分の子供によって主神の座を追放されるだろう」と予言されたので、父と同じことをした。つまり、姉であり妻であるレアとの間に生まれた神々(ハデスやポセイドンなど、のちのオリンポスの神々も多くここで登場している)を次から次へと飲み込み、自分の体内に封じてしまったのである。
そして、そんなクロノスの足元をすくったのは、かつてと同じく「母」であった。レアは末子であるゼウスが誕生したとき、夫に飲み込ませまいと石にすり替えたのだ。これによって命拾いしたゼウスは成長すると兄弟姉妹を解放して父に戦いを挑み、打ち倒して、主神の座を獲得するに至った。
この物語は「ゼウスを信奉するギリシャの人々が、クロノスを信奉する先住民族を追いやった」出来事を神話化したのではないかと考えられている。

農耕神? 時間神?

クロノスについてはちょっと面白い話がある。ギリシャ神話にはもうひとり「クロノス」と呼ばれる神がいるのだ。こちらは時間を司る神(あるいは概念)である。ウラヌスから生まれ、ゼウスを生んだクロノスとは別物であるのだが、名前が同じなのでしばしば混同されてしまう。
しかし、ふたりのクロノスはどちらも面白い存在なので、この誤解をあえて活かす手もあるのではないか。たとえば、あなたの世界において「名前が同じせいで間違って伝えられた神話、くっつけられてしまった神々」がいるとしたら? あるいは「時間神が主神であったなら、彼はなぜ己の子どもたちを飲み込んだのか」など、考える余地がいろいろある。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

タイトルとURLをコピーしました