No.43 「エンリケ航海王子 ―大航海時代を開いたパトロン」

榎本海月の連載

大航海時代を開いたパトロン

大航海時代の主役は何者か。多くの人が、実際に海に乗り出していった探検家や海賊たちを挙げるだろう。しかし、ある意味で彼ら以上に大航海時代に寄与した人々がいる。それは船乗りを支援したパトロンたちだ。彼らが資金を出したからこそ、数々の冒険と発見はなされたのである。
その代表格が彼、エンリケ航海王子である。名前の通り、ポルトガルの王子だ。彼はイベリア半島からジブラルタル海峡を挟んでアフリカ側にあるセウタを攻撃する戦いに参加した際、アフリカにまつわるさまざまな伝説を聞いた。豊かな黄金やアフリカ大陸西岸、そしてプレスター・ジョアンの物語などだ。
これらの噂で大いに冒険心を奮い立たせたエンリケは、アフリカ探検に着手する。もちろん、王子自らが船に乗って探検に挑むわけではない。彼の支援を受けた人々がアフリカ西岸方面を探索したのだ。結果としていくつもの島が発見されるとともに、アフリカ西岸のルートがある程度開拓された。
エンリケの生前、ポルトガルによるアフリカ探索は黄金や奴隷の交易である程度の成果を出した。彼の死後、アフリカ最南端の希望峰が発見され、さらにはインドへのアフリカ経由ルートも開拓されて、大航海時代はいよいよ盛り上がっていくことになる。

パトロンを掘り下げてみる

冒険・探索は金のかかる事業だ。必要な乗り物、人員、物資は大金を用意して初めて手に入る。パトロンとしての国家や有力個人、商人や企業などの役割がどれだけ大きいかわかってもらえるだろう。となると「パトロンはなぜそんな大金を出そうと思ったのか」が大事になる。単に経済的リターンを望んでいるだけなのだろうか。それとも政治軍事的な意味合いがあるのか。実はパトロン個人のロマンや思い入れ、過去の因縁が関わっているのかもしれない……。ここに、物語を広げ、深みを持たせるポイントがある。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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