No.40 「フレイヤ ―ただのトロフィーではなく」

榎本海月の連載

貴重な存在

北欧神話には三種類の神あるいはそれに類する存在がいる。オーディンを長とするアース神族と、これに敵対する巨人。そして、ヴァン神族である。アース神族が戦争の神々という属性を持つのに対して、ヴァン神族は平和と豊穣、そしてまた魔法に近しい傾向があったようだ。アース神族とヴァン神族は当初戦争をしていたが、やがて和睦している。
このヴァン神族の中心人物とされるのが女神フレイヤだ。弟にフレイがいて、この二人は夫婦であったともいう(ヴァン親族では近親婚が認められていた)。一方、フレイヤにはオーズ(オーディンのことであるとも)なる神と結婚したという話もある。
フレイヤは豊穣と魔法を司る女神であり、「夫を思って流した涙が黄金になった」というエピソードをはじめとして不思議で価値のある存在として神話の中で描かれる。そして当然美女――ということで、彼女はしばしば争いの種になった。巨人たちがフレイヤを手に入れようとし、そのせいで神々との戦いが始まるのだ。
一方、フレイヤは単に男たちに取り合いをされるだけの存在ではなかった節がある。
というのも、戦場の死者のうち半分はオーディンのもので、もう半分はフレイヤのもの、とする話があるからだ。本来の彼女には何かしら戦争や戦士にまつわる要素があったのかもしれない。

ただのトロフィーではなく

神話の中のフレイヤは、価値のある宝物のように扱われているところがある。それは当時の女性の立場をそのまま映し出したものでもあるだろう。しかし一方で魔法の力を持ち、戦死者の魂に半分の権利を持つ彼女は、ただのトロフィーでもなかった。特に現代の物語にモチーフとして用いるなら、フレイヤのような立場の女性が何を考え、どう行動するかはしっかり設定をしていきたい。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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