No.37 「ロキ ―トリックスターここにあり」

榎本海月の連載

トリックスターここにあり

ロキこそは北欧神話における最大のトリックスター、物語を引っ掻き回して動かす役目を背負った神である。ロキほどのトリックスターは他の神話に目を向けてもなかなかいないのではないか。
それほどに彼の「引っ掻き回し役」としての活躍は群を抜いており、もしあなたが神話や物語を作る際にトリックスターが必要なら、とりあえずロキは押さえておきたい。そんな存在なのだ。
ロキはもともと巨人族、つまり神々に敵対する存在だった(ただ、北欧神話では神と巨人は似たようなものとして描かれている)。ところがロキは神々の長であるオーディンと親しくなり、義兄弟の契りを結ぶ。トールと共に旅をするエピソードなどもあり、またオーディンのグングニルやトールのミョルニルといった神々の素晴らしい武器を提供する役回りを担うなど、基本的にはアース親族の一員として暮らしたようだ。
その一方で、ロキは神々の敵対者という属性を持ちつつづけた。ヘル(死の女神)、フェンリル、ミドガルズオルムといった怪物をこの世に生み出し、また光の神バルドルを死に追いやった。バルドルを殺した罪でロキは鎖に縛られたが、ラグナロクの日には解き放たれ、巨人族とともに神々と戦い。討ち死にするのだ。

キャラが立つ!

ロキほどキャラクターのモチーフにしやすい神もそうはいないのではないか。「神々の敵対者でありながら神々の一員でもある」というのがそもそもわかりやすい。どうしてそうなったのか、なぜ神々が敵対者を受け入れたのか、実際のところ彼と神々はそれぞれお互いのことをどう思っているのか。さまざまな点で独自の発想をすることで、あなたならではの(それでいて個性的な)キャラクターが作りやすいポジションにいるのだ。
たとえば、アメコミ「マイティ・ソー」でのロキは氷の巨人の子だがオーディンの養子として育てられ、ソーの義理の弟として登場した。しかしその立場から屈折した思いを抱え、義兄と対立することになる。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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