No.33 「ハドリアヌス」

榎本海月の連載

賢帝の時代

ハドリアヌスはローマ皇帝の一人である。ヤマザキマリ『テルマエ・ロマエ』で重要なポジションで登場したので、知っている人も多いだろう。
特に彼および彼の前後の5人の皇帝、すなわちネルウァ、トラヤヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウス、マルクス・アウレリウスは優れた治世を行なったことで知られ、「五賢帝」の総称で呼ばれている。またトラヤヌス以降の皇帝は先代の養子になって地位を継いだ、つまり直接の血縁でないことも特徴だ。
ヒスパニア(のちのスペイン)で生まれたハドリアヌスは先代皇帝であるトラヤヌスに見出され彼のもとで教育を受け、皇帝の地位を継承した。皇帝としては拡大路線よりも国境の安定を目指し、イングランドとスコットランドを分かつ「ハドリアヌスの防壁」はその象徴になっている。また行政の整備に尽力し、都市部だけでなく地方にまで目を光らせるなど、大いに善政を施した。五賢帝の時代には属州を含む帝国全土でのローマ化が進み、人々は繁栄を謳歌したが、中でもハドリアヌスの時代は特筆すべきであろう。ただ、元老院との対立や、ユダヤ人の反乱など、彼の時代にも問題が多くあったことは忘れるべきではない。
一方で彼は文化を愛する繊細な精神の持ち主でもあって、寵愛する美少年がなくなると大いに悲しみ、彼の魂を慰めるために都市や神殿を作るということもあった。

帝国の繁栄

繁栄する帝国とその皇帝を描きたいなら、ハドリアヌスをはじめとする五賢帝に注目するべきだ。血筋にこだわって適切でない後継者を選ぶようなことはないし、無理な拡張政策で国家を疲弊させもしない。人々の暮らしを安定させ、国家の理念である寛容の精神を発揮させて多民族を共存させた。
このような平和な状態を守ることが主人公たちにとって責務であるのかもしれないし、かつて存在した偉大な時代として振り返りことになるのかもしれない。逆に言えば、苦しい時代を描きたいのであれば、皇帝や国王はその逆の人物として描けばいいのだ。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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