No.31 「カリギュラ(カリグラ) ―皇帝はなぜ堕落した?」

榎本海月の連載

善政からの暗転

カリギュラ(カリグラ)は三代目のローマ皇帝である。彼は狂気の皇帝としてその名がよく知られている。
「カリギュラ」は通称で、本名は「ガイウス・ユリウス・カエサル・ゲルマニクス」。幼い頃に愛用した靴の名前に由来してあだ名がついたのだという。
カリギュラは二代皇帝・ティベリウスの跡を継いで皇帝になった。その当初、人々は熱狂的に彼を迎え入れた。それは善政を行なったためとも、名門の血筋に相応しい振る舞いであったためともいうが、「前皇帝であるティベリウスが甚だしく不人気だったから、その反動で人気が出たのではないか」という見方もあるようだ。
もし仮にカリギュラが真に賢明な皇帝であったとしても、彼の治世全般を良かったものだと評価することはできない。なぜなら、彼の善政は長続きしなかったからだ。カリギュラは突如として重病の床についた後、復帰するや狂気に取り憑かれたかのような振る舞いが増えてしまったのだ。
財産の浪費、有力者たちの処刑、そして自らの神格化。また、カリギュラは猜疑心に取り憑かれ、誰も信じることができなかったという。このような状況で長く政治を行えるはずもない。ついにカリギュラは皇帝就任の四年後、暗殺されてその生涯を終えたのであった。

皇帝はなぜ堕落したか

初は善政を行い、名君として知られていた人物が、やがて暴君あるいは暗君に堕落する……カリギュラの例を代表に、歴史上さまざまに見られるケースである。その原因は一体なんだったのだろうか。カリギュラのように病気なのか、それとも理想を掲げてもうまくいかないことの絶望したのか、あるいは誰か黒幕に操られるようになってしまったのか? いろいろ考えることができそうだ。
その人物が史実の人ではなく、あなたが作る架空の人物ならなおさら考える余地がある。ファンタジー世界なら魔法や毒、あるいは「神々や悪魔の干渉によって別人のようになってしまった王」というのもありだろう。逆に、そのようなファンタジックな原因があると見せて、実はただ政治に疲れただけとか、もともと善人でもなんでもなく周囲が勝手に誤解しただけとかの変化球を設定することもできる。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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