数々の名言を持つ男
カエサルはローマ共和国時代の政治家である。「シーザー」という英語読みで知っている人もいるかもしれない。皇帝のドイツ語読み「カイザー」とロシア語読み「ツァーリ」は彼の名前が由来になっている。しかし、意外かもしれないがカエサル自身は皇帝になったことがない。その前に凶刃に倒れているのだ。
カエサルは女神ウェヌスの子孫とされる名門一族に生まれたが、本人は一族の中で主流から外れた家の生まれだったようだ。
政治家・軍人として着実に実績を重ね、有力者のポンペイウスらと共に三頭政治を形成する一角になって、実質的なローマの統治機関であった元老院と対抗する存在になった。ガリア(のちのフランス)ではいわゆるガリア戦争で敵対する部族や反乱部族と戦い、武勲をあげている。この頃、ブリテン島(のちのイギリス)にも渡っている。
やがて三頭政治が崩壊し、ポンペイウスと対立するようになると、カエサルは元老院の命令を無視してローマへ軍を向けた。この時、最終ラインであるルビコン川を渡った時に口にしたとされるセリフが「賽(サイコロ)は投げられた」である。ここから始まるローマ内戦においてカエサルはポンペイウスを倒して勝利し、独裁的な権力を握るに至った。なお、エジプトの内戦に巻き込まれてクレオパトラを妻に迎えたのはこの頃の話である。
以後、カエサルはさまざまな改革を進めて成功したが、独裁であるが故に多くの恨みも買った。その結果、信頼していた部下のブルータスをはじめとする人々に襲撃され、命を落とす。「ブルータスよ、お前もか」はこの時のセリフであるという。
短所もあったがそれ以上の魅力があった
カエサルはどんな人物だったろうか。まず、政治家として人々の支持を集めるのに役立ったのが彼の弁舌であったという。文学面でもその評価は高く、『ガリア戦記』がよく知られている。一方で女好きだったこと、若い頃は借金まみれだったこと、頭が少なからず禿げていたことなどが弱みとして当時から知れ渡っていたようだ。また、カエサルは悪口を受け入れ、またかつての政敵であっても許すなど器の大きい人物であったともされる。
英雄だからといって、長所ばかり持っているわけではない。むしろ短所まみれながらも人間的魅力を強く持っている人物こそ、真に英雄らしいのかもしれない。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。