『博物誌』の著者
プリニウスはローマ帝国時代の軍人だ。甥を小プリニウス、彼を大プリニウスと呼ぶ。
北イタリアの都市コムム(コモ)の騎士の家に生まれて各地でローマ軍人として働き、皇帝ネロの死後に起きた内乱で活躍している。その後も高級軍人として大きな位置を示したが、ベスビオス火山の噴火に際して調査に赴き、ポンペイ市より脱出できなくなって死亡した。
ただ、彼のことはむしろ博物学者として知っている人のほうが多いのではないだろうか。若い頃からすでに戦記物を著すなど文筆活動に励んでいたが、そのような活動の成果として晩年に完成させたのが『博物誌』である。
なにしろ、全77巻の大部の中に、宇宙、気象、地理、人間、動物に植物……と、あらゆる物事が詰め込まれている。このプリニウスの仕事が空前で絶後だった、というわけではない。しかし分量だけでも古代ギリシャ時代の同じような本の二倍あったとされ、大きな仕事だったのは間違いない。
一方で、『博物誌』の問題としては明らかに荒唐無稽な話、現実とは思えない物事の紹介がされている点も指摘されている。この批判は正当なものであり、『博物誌』には数々のモンスターとしか表現できないものが「現実に存在する生き物」として紹介されているドラゴン、フェニックス、スフィンクス……。これらのことを考えれば、プリニウスの『博物誌』を、現代における博物学の事典と同じように扱うわけにはいかない。しかし、その一方でプリニウスが生きた時代は現実と神話の境目が曖昧であり、彼にとってはそれが真実だった可能性も考慮するべきだろう。
多才な軍人
プリニウスに着目するなら、まずは「軍人でありながら学者であり、好奇心旺盛な人だった(そうでなければ『博物誌』は書けない!)」点が第一に挙がる。公で優れた仕事をする人の、思わぬ側面……のような設定を用意できると、キャラクターの魅力が深まるだろう。
そしてもちろん『博物誌』に描かれた要素そのものも大いに参考になる。ファンタジックな世界では、前述したように批判されがちな『博物誌』の非現実的な要素が登場したとしても、何もおかしくはないだろう。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。