No.14 「ジル・ド・レ」

榎本海月の連載

堕落した英雄

ジル・ド・レは以前紹介したジャンヌ・ダルクと同じ、百年戦争の時代を生きたフランスの大貴族である。いや、それどころかジャンヌとともに戦った、戦友と言っていい人物であった。
ジルはかなり優れた人物であったようだ。文字が読め(当時は貴族でも珍しかった)、軍人としても頭角を現す。そんな彼が出会い、心底惚れ込んだのがオルレアンの乙女、ジャンヌ・ダルクであったわけだ。ジャンヌはあくまで神がかりの人であって、兵の士気を劇的に向上させることはあっても、巧みに軍を動かすことができたとは思われない。とあれば、実際に軍を指揮し、フランスに勝利をもたらせたのは、かなりの部分でジルの功績だったと考えるべきだろう。
ところが、ジャンヌが魔女として処刑された後、彼の運命は暗転する。財産を一気に失っていくのだ。それは宴や美術品などの放蕩であるとも、あるいは戦争のための浪費であったともいう。結果、財産を巡った争いの末に罪に問われたジルは、実は悪魔崇拝や錬金術、さらには多数の美少年を殺害していたことが明らかになる。彼は異端の倒錯者として火刑に処されたのであった。
この堕落の有様をモデルにして描かれたとされるのが、青い髭を持つ貴族が妻を次々に迎えては殺していた……というペローの「青髯」であり、また各地に伝わる同種の物語群である。

悪役の掘り下げ

背景のある悪役、あるいは過激な悪役を描きたいのであれば、ジル・ド・レは実にわかりやすく参考になる。純粋な悪というよりは、もともと善であった人が悲劇によって絶望し、悪へ転じるほうがある種の説得力があり、またそのほうがより過激な悪になる傾向があるからだ。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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