No.13 「ベーオウルフ ―英雄も老いるもの」

榎本海月の連載

二部制の物語

ベーオウルフは中世イギリスの叙事詩であり、またその主人公の名前である。若き勇者が王になるまで、そして年老いた王が次世代のために命を捨てるまでの、二部構成になっているのが特徴だ。
第一部はベーオウルフ若き日の活躍である。デンマークが巨人グレンデルによって脅かされていたところ、スウェーデンからやってきた勇者ベーオウルフと仲間たちがこれを退治した。その後、グレンデルの母親が再びデンマークを襲ったが、やはりベーオウルフが退治し、一行はスウェーデンへ戻る。
一方、第二部では故郷で王になったベーオウルフは50年にわたって良い政治を行なったが、もうすっかり老いてしまっている。そんな彼にもたらされたのが、地下に住む火竜が国を襲っておるという知らせだった。竜は己の財宝を奪われたことに憤っていたのだ。ベーオウルフは部下ともに竜のねぐらに挑み、部下たちの多くが恐れて逃げる中も勇敢に戦い、ついには相打ちになって竜を討つのである……。

英雄も変わっていく

英雄といえど、不老不死でないなら(それはそれでいる。ヘラクレスがそうだ)老いからは逃げられない。また、成功の結果として地位や権力を得て、良くも悪くも変わっていくのも英雄によくあることだ。イアソンは悪い意味で変わった例かもしれないが、ベーオウルフは良い意味で変わった例と言っていいだろう。
第二部のベーオウルフには若き日の蛮勇はないが、その代わりに強い責任感がある。きっと、老いた彼の方が強かったはずだ。英雄の人生を描くにあたっては大いに参考にしてほしい。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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