No.12 「イアソン」

榎本海月の連載

アルゴー船のリーダー

イアソンの物語は、彼の父ギリシャ東部、テッサリアの都市イオルコスの王座を兄弟によって追われるところから始まる。その父によってケンタウロス族のケイローンに預けられ、彼の教育を受けたイアソンは雄々しく成長した(ヘラクレスも実はケイローンの弟子である)。
意気揚々と叔父の前に現れて王位の返還を求めたイアソンに対して、叔父が条件として出したのは「海の彼方のコルキス国へ赴き、金羊毛を持ち帰れ」ということだった。この難題に応えるため、イアソンはアルゴー船と呼ばれる立派な船と、五十人余りの英雄たちを集める。その背景にはヘラやアテナといった神々の助力があったのが、いかにもギリシャ神話的である。
数々の障害を乗り越えながら海を渡ってコルキスへたどり着いた一行だったが、現地の王もまた無理難題をふっかけてくる。これを解決したのはコルキス王の娘、魔女メディアだった。神が彼女に干渉してイアソンに恋をさせ、その魔力によって難題を解決させるとともに、金羊毛を奪って逃げる手伝いもさせたのである(その時、メディアは弟を惨殺することで目眩しをしている!)。
故郷に戻ったイアソンは結局叔父もメディアの力で殺してしまい、コリントスに落ち着いた。そしてそこで王と親しくなったイアソンは、その娘を娶ってメディアを捨てるが、彼女の怒りを買って妻を殺されてしまう。この時、イアソンとメディアの間に生まれた娘たちも殺されている。全てを失ったイアソンは放浪の末、崩れてきたアルゴー船の下敷きになって死んだと伝わる。

実に現代的なヒーロー

イアソンの物語は現代にそのまま移しても成立するのではないかというくらいよくできている。つまり、「糟糠の妻の力で成功した男が、彼女を捨てようとしたら破滅した」話なのだから。シチュエーションを変えれば色々な話に使えそうだ。
また、アルゴー船一行(アルゴナウタイなどと呼ぶ)はギリシャ神話オールスターズとも呼ぶべき人たちで、あのヘラクレスをはじめとして錚々たるメンバーが揃っている。彼らの個性的な冒険や関わりも想像の余地があって楽しく、発想のヒントになる。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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