No.11 「ヘラクレス ―試練を乗り越えた大英雄」

榎本海月の連載

数々の試練を乗り越える

ギリシャ神話における最大の英雄、ヘラクレスは先日紹介したペルセウスの玄孫にあたり、つまりアルゴス王家の生まれである。
しかし、彼の父はゼウスだった。例によって例の如くゼウスが人間の女性に生ませた(双子だったが、片方が神の子ヘラクレス、もう片方は彼女の夫の、つまり人間の子であるとされる)子だ。しかし、そのことが嫉妬深いゼウスの妻ヘラの怒りを買い、以後生涯を通してヘラの干渉を受けることになり、そのことがまたヘラクレスの冒険を華々しく飾ることになる。
そもそも生まれてすぐヘラが送り込んだ蛇を殺して己の身を守ったヘラクレスは、長じると雄々しい戦士になって多くの手柄を立てた。ところが最初の結婚をした後にヘラの吹き込んだ狂気によって己の子供を殺してしまい、その罪をすすぐために12の難行に挑戦することになる。
ライオン退治、ヒュドラ退治、鹿の生捕り、猪の生捕り、数千匹の牛がいる牛小屋の掃除、鳥退治、人喰い馬の生捕り、アマゾン女王の帯奪取、怪物牛の生捕り、世界の果てにある黄金のリンゴを持ち帰る、そして冥府の番犬ケルベロスの生捕り。出てくるのは現実離れした怪物ばかりで、どれひとつをとっても人間の身には不可能な冒険であり、しかもヘラの妨害もあったのに、ヘラクレスは見事全てを達成して見せた。結果として不死身の肉体を得ている。
その後も数々の冒険を成功させたヘラクレスであったが、最後には妻(最初の妻とは別人)に浮気を疑われたことからヒュドラの毒を受け、苦しんで死んだ。ゼウスは彼の不死の部分を神として天上に上げ、そこでヘラクレスはヘラとも和解したという。

ドラマチックな人生

ヘラクレスといえばなんといっても、12の難行をはじめとする冒険の数々だ。立ち塞がる個性的な怪物(猪や鹿も普通の生き物ではない!)、解決しなければいけない障害や難題、そしてヘラによる妨害。それらは実にバリエーションに満ちているし、実は難行についても「予定通り解決したと思ったら物言いが入って追加で難行発生」などという、意外と現代エンタメっぽい工夫が施されていたりする。ドラマチックな冒険を演出したいなら、大いに参考にするべきだ。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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