久世番子『暴れん坊本屋さん』(新書館から全3巻が2005〜2006、のちに完全版全2巻が2012)
初出:『月刊ウィングス』『ウンポコ』(2005〜2006)
暴れる書店員たち
本作はプロの漫画家として活動しながら、一方で書店員としても働いていた著者自身の体験を描いたコミックエッセイである。書店員としての楽しみ……的な部分よりも、どちらかと言えば書店員の大変さ、困ってしまうことなどの方が多いのは、やはりリアルな部分を隠さず書こうという意気込みのなせる技なのか。
と言っても愚痴がメインの湿った内容というわけでもなく、次々訪れる問題(本が重いから腰痛になる、困った客が来る、紙で手が切れる……)に、半ばやけくそ的にも見える勢いで立ち向かっていく著者と書店員仲間たちの姿がしばしば雄々しくて笑ってしまう、プラスの雰囲気の物語であるのが救われるところだ。一方で、著者が自身の作品をたくさん仕入れて目立つところに置こうとして仲間に怒られるシーンなども、タイトル通り「暴れん坊本屋さん」の逞しさを感じるいいところだ。
体験を作品にするために
ノンフィクションのコミックエッセイの形にするにせよ、最近紹介した『それが声優!』のようなフィクションの形を取るにせよ。自分の体験したことやその題材に感じていることをどんな風に作品に反映させるかが重要になる。
その点、この作品は皆さんにとっても馴染み深いであろう書店(本屋)で働く人たちの物語だから共感しやすいだろうし、一方で「自分たちが楽しむためにこういう苦労があるんだな」と感じさせてくれるところもあって、学べることも多いはず。しかしそれだけだと辛気臭くなりかねない部分を、やっぱり仕事に愛情があるし、本も好きだという書店員たちの「暴れ」っぷりで爽快にさせているのはすでに紹介した通り。こういう作りを参考にしてほしいのだ。

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【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。