No.61 野田サトル『ゴールデンカムイ』

榎本海月の連載

野田サトル『ゴールデンカムイ』(集英社、24巻刊行中、2015〜)
初出:『ヤングジャンプ』(2014〜)

黄金を求めて

日露戦争帰りの元兵隊、戦地では「不死身の杉本」と呼ばれた男には金が必要だった。だから北海道にまで出かけて砂金を探したが見つからない。途方に暮れる彼の耳に飛び込んだのは、莫大な黄金と、その隠し場所の地図を刺青として刻まれた脱走囚人たちの話だった。実際に刺青を手に入れ噂を確信した杉本は、黄金の謎と関わるアイヌの少女アシㇼパと共に囚人たちを追う旅に出る。それがどれほど過酷で長い旅になるか知りもせずに……。
「黄金を探す」「そのための地図を持つ囚人を探す」というメインストーリーは基本的に変わらないのだが、その中で旅をするキャラクターや状況、関わってくる勢力が目まぐるしく変わっていくのが本作の特徴である。杉本たちに協力する囚人あり、黄金を狙う現役の軍人たちあり、そして幕末の亡霊・土方歳三あり……時に杉本とアシㇼパが離れ離れになる展開もあって、常にドキドキハラハラさせるストーリーになっている。
かと思えば無邪気な(それでいて結構シビアな)アシㇼパのかわいらしさとさっきまで戯れていた動物をあっさり殺す生活力の高さにほのぼのしたり笑ったり。あるいは杉本とアシㇼパの心の交流に涙したり。読者の心を揺さぶってくる物語なのだ。

自然と時代と文化を描く

勢いのあるアクション、個性的なキャラクター(だいたい同時期の有名な犯罪者や偉人をモチーフにしたキャラクターなどが次々と出てくる。特にゲストには変態性を強調したようなキャラクターが多く、この作品のウリの一つになっている)も重要だが、特に注目してほしいのは物語の中で描かれる北海道の自然やアイヌの風俗、また明治という時代そのものだ。
杉本も、アシㇼパも、それ以外のキャラクターたちも、その境遇や精神性が北海道や明治ならではのキャラクターになっている。これはクリエイターが目指す境地の一つだと思い、ここで紹介する。

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『ゴールデンカムイ』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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