石田敦子『球場ラヴァーズ』シリーズ(少年画報社、シリーズ総計14巻、2010〜2016)
初出:『ヤングキング』『ヤングキングアワーズ』『月刊ヤングキングアワーズGH』(2010〜2016)
さまざまな切り口で描く野球ファンの物語
女子高生の松田未央はいじめられた末に援助交際を図り、それは未遂で終わったものの相手からお金と野球(広島カープの試合)のチケットを盗んでしまう。お金を返そうとチケットの試合に足を運んだことをきっかけに、彼女はめくるめく野球と広島カープの世界に足を踏み込むことになる……。
このシリーズはさまざまな切り口と主人公を用いて「野球ファン」「広島カープ」を描いていく物語だ。主人公が変わるごとにサブタイトルも変わり、『私が野球に行く理由』では前述の未央が野球や球場で出会ったファン仲間との交流でいじめから立ち直る様を、『私を野球つれてって』では野球嫌いな未央のバイト仲間の葛藤と成長を、『だって野球が好きじゃけん』では未央の物語でも活躍した野球観戦仲間の日常を、『こいコイ! 〜球場ラヴァーズ〜』では一生懸命になることが出来なかった中学生の少女がカープとの出会いで変わっていく様を、そして最終章にあたる『球場ラヴァーズ3-2(フルカウント)』では各章のキャラクターたちの「その後」を描く。
「野球とカープが好き!」
なぜこのシリーズがカープにこだわるのかといえば、それは著者が熱狂的なカープファンだからである。であるから、この作品には隅々まで著者の「好き」の気持ちが詰め込まれている。そして、何かを好きになる気持ちがいかに人生において辛いことを乗り越える力になるか、生きていく上の励みになるかが満ち溢れているのだ。
そのため、皆さんが青春ものや職業ものを書くにあたってはもちろんのこと、人生そのものについても大いに参考になる作品であろう。

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【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。