No.57 石川雅之『純潔のマリア』

榎本海月の連載

石川雅之『純潔のマリア』(講談社、全3巻2010〜2013、およびサイドストーリー全1巻2015)
初出:『good!アフタヌーン』(2008〜2013、および2014〜2015)

聖母の名を持つ魔女の物語

百年戦争時代、ジャンヌ・ダルクが死んだ後くらいの時期のフランスに、一人の少女がいた。彼女の名前はマリア。恐るべき魔獣やサキュバスなどを召喚する偉大な魔女である一方、聖母の名前を持つことに象徴されるが如く純潔、つまり処女である。
そしてもう一つ、マリアには大きな特徴がある。戦争が大嫌いなのだ。それによる人死にも許せない。だからその魔女の力を持って戦争を止めるべく奔走するが、天使からすれば魔女による戦争の介入は許されざることだ。天使に睨まれ、使い魔のサキュバスに魔女なのに純潔であることをからかわれ、それでもマリアが戦争と戦う先に、何が待つのか――?

捩れた価値観、生き生きとしたキャラクター

邪悪なはずの魔女が流血の戦争を止めようとし、神聖なはずの教会は戦争を煽り、天使もまた魔女の振る舞いを認めない……このような価値観の捩れを、生き生きとしたキャラクターたちの物語と同時に描くのは、著者の真骨頂と言える持ち味だ。しかも、歴史的な事件や当時の人々の暮らしなどもしっかり書き込んでいるので全体の雰囲気が「地に足がついている」と感じさせ、テーマ性にも説得力が増している。
実は同作者のこのタイプの作品としては、中世日本の倭寇と不死者を主題にした『カタリベ』の方が個人的に好みなのだが、残念ながらこちらの作品は一巻で終わってしまっていて作品としては実質的に未完成と言える。そこで同タイプ作品のこちらを紹介させていただいた。

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『純潔のマリア』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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