No.55 横田卓馬『背すじをピン!と〜鹿高競技ダンス部へようこそ〜』

榎本海月の連載

横田卓馬『背すじをピン!と〜鹿高競技ダンス部へようこそ〜』(集英社、全10巻、2015〜2017)
初出:『週刊少年ジャンプ』(2015〜2017)

めくるめく競技ダンスの世界

鹿鳴館高校に入学した平凡な高校生、土屋雅春。彼の運命は、新入生歓迎会で出会った競技ダンスによって大きく変わった――。競技ダンス部に入った彼は、パートナーになった亘理英里や個性豊かな先輩たち、大会で出会ったライバルたちとの切磋琢磨を経てどんどん競技ダンスににめり込んでいく。競技ダンスはスポーツであり、ショーであり、そしてそれぞれの人生や事情を映し出す鏡でもあって、それぞれの側面から物語が展開される……。
土屋・亘理ペアが競技ダンスについて一から知っていく様を物語の軸にすることで、競技ダンスについて全く知らない人でも問題なく物語を楽しむことができるようになっている。その一方で、スポーツとして盛り上がる部分はベテランの先輩たちが受け持つので、どちらかと言えば群像劇に近いストーリー構造と言えるかもしれない。しかし、土屋・亘理ペアは敗北した後もしっかり物語に影響を与えていて、部活の面白さ、青春の楽しさが味わえる作りになっているのだ。

地に足がついた青春物語

スポーツものは漫画を中心にさまざまなエンタメで見られるが、簡単ではない。バトルの派手さに欠けるからだ。そこでファンタジックな要素と組み合わせたり、演出を派手にしたり、超人的なアクションを差し込んだりする手法が好まれる。
しかしこの作品の場合、そのような要素は薄い。いや、競技ダンスの描写自体はかなり工夫がなされているが、主人公たちの活躍はあくまで常識的だ。このような作品が受け入れられるのは、一つには時代の変化によるリアル嗜好もあるが、それだけではなく「当たり前の青春や成長を丁寧に描く」ことができているからだ。青春ものを書きたい人は是非お手本にしてほしい。

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『背すじをピン!と』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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