No.54 馬田イスケ『紺田照の合法レシピ』

榎本海月の連載

馬田イスケ『紺田照の合法レシピ』(講談社、全9巻、2015〜2019)
初出『少年マガジンR』(2015〜2019)


極道にして料理好き

紺田照は指定暴力団・霜降肉組に入ったばかりの暴力団員だ。一方で、身分を隠して学校に通う高校生でもある。組ではいざという時の度胸や冷静な判断力によって若いながらも周囲や他勢力に恐れられ、学校でも明らかに違う雰囲気で一目置かれる彼には、一つ強烈にこだわることがある。それは「料理」だ。
いつも鉄火場のことを考えているように見える紺田の頭の中は、実は大体料理のことでいっぱい。本シリーズの面白さはそうした彼の内面と外面のギャップおよび周囲の勘違い、そして日々の食事や学校に持っていく弁当について頭を悩ませる紺田が「極道用語」「極道発想」で料理の答えを見出していくところにある。

ミスマッチが命

この連載で繰り返し紹介している通り、エンタメの面白さにはミスマッチやギャップが欠かせない。「似合わない人が真面目にやっている」からこそのコミカルな面白さ、「普段ならできないやり方で問題を解決できる」からこのシリアスな魅力があるからだ。本シリーズの場合は前者の典型と言える。
極道、ヤクザ、暴力団員は普通強面だ。その顔や振る舞いの恐ろしさによって商売をしているのだから当然である。
そんな彼らが人を殺したり金を奪ったりするのではなく、料理という多くの人が頭を悩ませる日常的な問題に、あくまで真面目に挑戦する、というところにこそ本シリーズの面白さがある。ここにテレがあってはいけない。面白さが半減してしまう。皆さんもミスマッチなコメディを書くときには「本人は真面目」が基本であることを忘れないようにしてほしい。

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『紺田照の合法レシピ』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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