藤本タツキ『チェンソーマン』(集英社、9巻刊行中、2019〜)
初出:第一部が『週刊少年ジャンプ』(2019〜2020)。第二部連載予定中。
悪魔でも魔人でもなく
人間を脅かす「悪魔」や、悪魔が人間の姿をとった「魔人」がいる日本。デンジはチェンソーの悪魔・ポチタとともにヤクザに飼われたデビルハンターとしてギリギリの暮らしをしていた。明日をもしれぬ過酷な生活の中で、それでも自分たちの幸福を探そうとしたデンジたちは突然の裏切りに遭い――そして、デンジはポチタの心臓と悪魔の力を持つ「人間でも悪魔でもないもの」になった。
そんなデンジの新たな「飼い主」は公安警察の謎めいた女性マキマ。彼女の元でデンジは悪魔との過酷な戦いを続ける一方で、人間らしい暮らしを知り、ポチタ以外の「友人」、あるいは「家族」というべきものを手に入れていく。そんなマキマの目的は「銃の悪魔」なる恐るべき悪魔との戦いかと思いきや、やがて物語は思わぬ展開へ……。
貧困の中で
この作品の大きなテーマになっているのは貧困だ。それは単純に「お金がない」ということでもあるし、さまざまな事情で子どもとして当然の権利である教育を受けていなかったり、選択肢を与えられていないが故に歪に育った若者たちの「貧しさ」でもある。デンジたちと悪魔や魔人との戦いそのものは爽快なアクションとして描かれるし、過酷な状況でもある種の能天気さで突き進んでいくデンジはカッコよくもある。しかし、一方で徹底的に描写される貧しさが、読者に「ただかっこいいアクション漫画」として本シリーズを消費することを許さない。その苦味こそがこの作品を差別化する売りになっているのだ。
このような作品としての作りは主に青年誌で見られるテクニックだが、この作品はあえて週刊少年ジャンプでそれをやった。ミスマッチだが、だからこそ唯一無二なものになっているのだ。

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【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。