トマトスープ『ダンピアの美味しい冒険』(イースト・プレス、2巻刊行中、2020〜)
初出:『マトグロッソ』(2019〜)
海賊たちの生活に迫る
ウィリアム・ダンピア。実在したイングランド出身の船乗りである。海賊(私掠船船員)としても活躍した人だが、特に「三度の世界一周航海を体験した人」「博物学上多くの発見をした人」として知られている。そんな彼を主人公に、大航海時代の船乗りたちがどのような過酷な暮らしと危機的状況を体験していたか、彼らの楽しみや喜びはなんだったのか、そして大航海時代に世界がいかに変わろうとしていたかを描くシリーズ。
独特の柔らかなタッチだが動植物や自然の描写はリアルで、また人間はちょっとコミカル寄りの描き方をしているのにストーリーの展開はシビア。このミスマッチ気味のグラフィックが意外なほどに作品の雰囲気にマッチしているのは、世界を見て記録しようと理想に燃えるダンピアが、一方で世界のシビアさもしっかり理解していることを表しているかのように感じられるからだろう。
知名度は高いが……
「大航海時代」と「海賊」。どちらも知名度が高い言葉だし、エンタメ作品でも盛んにテーマとして使われるので親しんでいる人が多いはずだ。だが、実際のところ大航海時代はどういう時代だったのか? 海賊は自分たちをどんな存在として定義していたのか? ロマンに満ちた時代や職業として捉えられることが多いだけに、このようなリアルな姿、丁寧な描写には意外と縁遠いのが「大航海時代」と「海賊」ではないだろうか。
この作品では「大航海時代がどういう時代だったのか」「海賊とはどんな存在だったのか」を豊富な情報量で説明しつつ、ダンピアたちがたびたびピンチになる展開で物語を盛り上げることで漫画としても読んでいて面白く、勉強になる。

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【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。