No.49 杜康潤『孔明のヨメ。』

榎本海月の連載

杜康潤『孔明のヨメ。』(芳文社、11巻刊行中、2012)
初出:『まんがホーム』(2011〜)

天才軍師孔明、出現前夜から物語は始まる

時代は古代中国、後漢末期。中原で曹操が勢力を拡大していた頃、その南の荊州に一人の農夫がいた。名を諸葛亮、字を孔明。後の世に天才軍師として知られる男の、まだ歴史に登場する前の姿である。優れた才を秘めながらまだ誰も知られぬ存在であった彼は、全くの偶然から土地の有力者・黄承彦の娘を妻に迎えることになる。それが黄月英――本シリーズの主人公だ。
学問や技術研究に身を入れすぎて婚期が遅れまくった月英と、実は似たもの同士の孔明は、おっかなびっくりながらも少しずつ関係を深めていく。優れた若手役人の龐統や士官先を探しながら何でも屋で忙しく働く徐庶といった孔明の昔馴染みたちも登場しつつ、二人の日常は賑やかに過ぎていった。
だが、乱世は二人や周囲の人々を放っておいてはくれなかった。北では曹操が周囲を固めつつ南も睨み、その南の荊州では刺史(長官)劉表の後継者問題が落ち着かない。荊州には曹操のライバルの劉備が居候をしており、そのことがまた荊州を揺るがしている。これらの社会的情勢が孔明たちを歴史の表舞台に引き出す……。

古代中国をこまやかに描く

言わずと知れた『三国志』のヒーロー、諸葛亮(孔明)を主人公にした作品は数多い。彼の妻である黄月英についても伝説は多く、さまざまなエンタメ作品でその姿を見ることができる。しかしこの作品は切り口がかなり珍しい。目立って活躍する前の孔明や月英の生活を通して、古代中国・三国時代の人々がどんな風に暮らしていたのか、衣食住や経済などはどうだったのか……を丁寧に描いているのである。
その背景には著者の三国志知識(『杜康潤のトコトコ三国志紀行』(スクウェア・エニックス)『中国トツゲキ見聞禄』(新書館)
などのコミックエッセイで著者の三国志や中国への情熱、留学時代の暮らしなども描かれていて、そちらも面白いので是非)が存分に描かれている。つまり、知識をいかに物語へ活かすかという点で大いに参考になるのだ。

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『孔明のヨメ。』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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