No.47 原作:板倉俊之 作画:武村勇治『トリガー』

榎本海月の連載

原作:板倉俊之 作画:武村勇治『トリガー』(実業之日本社、全5巻、2011~2015)
初出:『週刊漫画サンデー』及びその公式サイト(2011~2014)

トリガーの弾丸が撃つものは

近未来の日本は選挙国王制になっていた。政治家たちの無策に国民が憤ったからだ。腐敗した初代国王を打倒した二代目国王は、画期的な政策を立ち上げる。「トリガー」……ベレッタ(拳銃)を持ち撃つべきと感じた相手を撃って良いと定めた人間を47都道府県に一人ずつ配備したのである。
トリガーの任期は一年。選別については特殊な方式が用いられるが、人格・立場・性質はバラバラだ。悪を憎むものあり、己の欲に飲み込まれるものあり、独自の信条に従うものあり。己が望んだ相手を撃っても殺人罪に問われない彼らがいることで、社会は、犯罪は、どう変わるのか。トリガーでないものがトリガーに成り代わろうとしたとき、なにが起きるのか。そして、トリガーが放った弾丸は最後に誰を殺すのか――。
お笑い芸人コンビ「インパルス」の板倉の処女小説をコミカライズした作品。

大胆な発想

前回紹介した『亜人(デミ)ちゃんは語りたい』と同じく、現代に近い日本に特別な要素があったら社会のあり方と人の暮らしはどう変わるか……というパターンの作品だが、そこで持ち込まれるのが「実質的な殺人許可」であるところが実にドラスティックでインパクトが有る。このあたりはさすが、芸人の発想力と言うべきであろう。原作者の板倉は読書家ではないとのことだが、結果として「なろう系」的大胆な発想につながったようにも思える。
民主主義社会は意思決定のプロセスが遅いとされ、社会に対する不満が高まるのはある程度仕方がないところがある。そこに「悪人を殺すヒーローがいてほしい」と考えるのは当然のことだろう。では、殺人許可を持つものが本当にいたら世の中はどうなるのか? 本当に良くなるのか? その問の結果はシビアで、だからこそ面白い。

<購入はこちら>

『トリガー』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

↑こちらから同じカテゴリーの記事一覧をご覧いただけます
タイトルとURLをコピーしました