No.46 ペトス『亜人(デミ)ちゃんは語りたい』

榎本海月の連載

ペトス『亜人(デミ)ちゃんは語りたい』(講談社、9巻刊行中、2015~)
初出:『ヤングマガジンサード』

亜人じゃなくてデミ!

私たちの暮らす現代日本とよく似たその社会には、人間ではない特別な存在が暮らしている。伝承に語られる、人間に近い姿の妖怪や怪物たちだ。特別な力もあるが弱点・不便も多いためむしろ弱者である彼らは社会制度によって守られ、人々に受け入れられている。正式な名称は「亜人」だが可愛くない――ということで「デミ」と呼ぶのが若者の流行りである。
存在は知られているもののそんなに頻繁に出会うものではないようで、主人公の高橋鉄男は以前から(生物学的な意味で)亜人に興味がありつつ、実際に遭遇したことはなかった。ところが、生物教師として赴任した学校で、次々と亜人に出会うことになる。吸血鬼、デュラハン、雪女、そしてサキュバス。それもみんなかわいい女の子か、同僚の女教師だ。鉄男は彼女たちから亜人たちの事情を聞く中で親しくなっていく……。

ささやかな日常をドラマチックに

クリエイターと受け手がよく知っている現代日本に特別な要素を入れ込んだら、そこにどんな変化が起きるのか、あるいは起きないのか――。その結果としてささやかな日常や主要キャラクターたちの心情をドラマチックに飾り立てる手法は、エンタメの基本中の基本とも言えるもので、さまざまな作品に見ることができる。
本シリーズの場合にはバトル展開などは特になく、当たり前の女子高生や女性のメンタリティを持つ亜人たちの可愛らしい日常を、亜人ゆえの事情によって特別なものに仕立てている。ここで「ちょっとくらい変でも本質は変わらないんだな」と思わせられるかどうかがこのタイプの作品のキーで、大いに参考になるだろう。

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『亜人ちゃんは語りたい』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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