とよ田みのる『FLIP-FLAP』(講談社、全1巻、2008)
初出『月刊アフタヌーン』(2007~2008)
「普通」な青年とピンボール
「普通」を自認する深町は卒業式の日、覚悟を決めて同級生の山田華に告白する。そうして返ってきた答えは意外すぎるものだった。いわく、「ピンボールでハイスコアを出したら付き合う」――。それが一年に渡る深町のピンボールへの挑戦と、さまざまな人々との出会いの始まりだった。
ピンボールは主にゲームセンターなどに置かれているゲームの一種だ。傾斜したゲーム板にボールを打ち出し、動く板フリッパーでこれを打ち上げてターゲットに当てたり特定の場所を通過させたりしながら点を稼ぎ、またゲームを継続させていく。古くから人気があり、世界大会などもあるが、少なくとも日本では決してメジャーとはいえないゲームだ。
深町は山田をきっかけにこのゲームにのめり込んでいき、その中で楽しさを見出していく。それは山田のことであり、ピンボールのことであり、またゲームセンターに集う仲間たちのことでもあった……。
変わったヒロインと1対1
短期連載作品(及びテーマと舞台を同じくする読み切り作品)だけに多様な要素が詰まった作品ではない。しかし、自分を「普通」と考える青年と、明らかに「普通」でない女性が、ちょっと変わったゲームをきっかけに変わっていくというメインテーマは実に濃厚に描かれていて、読んでいて飽きるということは決してないはずだ。ライトノベルの新人賞や漫画の短編賞向け作品を書きたい人にとって、「テーマを濃縮するためにはどうしたいいのか」の手本になるはず。
また、この作品のような主人公とちょっと変わったヒロインの基本的には一対一の関係性というシチュエーションは、近年のラブコメにおける定番となっている(ここまでに紹介した作品では『宇崎ちゃんは遊びたい』が該当する)。そういう意味でも参考にして良い。

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【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。