No.43 水上悟志『散人左道』

榎本海月の連載

水上悟志『散人左道』(少年画報社、全2巻、2002~2004)
『ヤングキングアワーズ』(2002~2004)

「隣人」たちがいる世界

各地を旅する胡散臭い男、フブキ。彼の行く先には精霊や化生――すなわち、人間とは違うが同じ世界に暮らす「隣人」が次々と姿を表す。ただ隣にいるだけなら問題はないが、「障り」として害をなすなら祓わなければならなくなる。フブキにはその力がある。彼は左道黒月真君の名を師匠から受け継いだ仙人だからだ。……ただし、その名前は継承したばかりだが。
物語の前半はフブキが旅先で出会う「隣人」たちとの関わりが中心だが、やがて彼の周囲に集まる人々の事情、そしてフブキ自身が過去においてきたものとの対決が物語の中心に置かれるようになる。過去と向き合い、そして乗り越えるのは物語の大定番テーマであるが、どれだけ深刻な状況になってもどこか力が抜けて落ち着いた感じがあるのは作者特有の味というべきものだ。個性とはどういうものか、の参考になるだろう。

作家性が出る作品

本作は現在も活躍する著者の連載デビュー作で、現在の作品群と比べると荒削りだが、それだけに作家性というべきものがよく出ているように思う。その後、円熟味が出てきた作品――著者の場合は『惑星のさみだれ』や『スピリットサークル』などの作品群ももちろん面白いが、クリエイターが手本にするなら本作がおすすめ。まず大事なのは自分の書きたいテーマや雰囲気だからだ。
なお、本作が気に入ったなら次に読む作品としては『戦国妖狐』がいい。戦国時代を舞台に、大河ドラマ的に状況や主人公が変わりつつ、壮大なスケールで物語が展開するのだが、本作でも描かれたようなテーマ性、独自の視点もきちんと残っている。

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『散人左道』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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