冨樫義博『レベルE』(集英社、全3巻単行本1996〜1997、全2巻文庫版2010)
初出:『週刊少年ジャンプ』(1995〜1997)
宇宙人はいる!
地球人は知らない。今、数百種もの宇宙人たちが地球へ来訪し、生活していることを。彼らの中には友好的なものから敵対的なものまでいることを――。
90年代半ば、オカルトブームの波に乗る形で描かれた宇宙人もののSF短編連作。主要キャラクターとしてドグラ星の王子(通称「バカ王子」)がたびたび顔を見せつつも、基本的にはさまざまな宇宙人にまつわる短編が手を替え品を替え描かれる作品である。
作品の雰囲気はホラー(謎の存在に襲われる恐怖など)、SF(時に価値観や生態さえ異なる宇宙人・宇宙生物との接触など)、青春(恋愛、スポーツ、進路、友情など)とごたまぜだが、そもそもこの3ジャンルは大変に相性がいいので、特に違和感はないはず。むしろ「どう混ぜるか」の参考になるだろう。
『幽☆遊☆白書』『HUNTER×HUNTER』で知られる大ヒット漫画家が、両作品の狭間の時期に描いていた作品。長期連載作品ではないが、むしろ作家性が強く出ており、ファンの評価はかなり高い。
アイディアが魅力
短編連作は、世界設定やテーマの中でいかに自由に発想をするかが重視されるため、その見本として大いに役立つ。この作品でも「どんな宇宙人を登場させるか」「そこからどんな物語を作るか」そして「いかにどんでん返しを用意するか(実は一般に知られているのとは別の顔があって……というアイディアが手を替え品を替え使われる)」という工夫がなされており、ストーリー面でも評価が高い。
しかしその一方で、キャラクターを放置してはエンタメが成立しない。この作品の場合、天才的頭脳と最悪のトリックスター性を兼ね備えるバカ王子が事態を引っ掻き回し、彼に振り回される部下のクラフト隊長が苦悶する……という構図が定番で、特にクラフトの悩みっぷりが真に迫りつつ滑稽で、それだけで笑えてしまうし面白い…

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【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。