No.40 原作:矢立肇・原案:富野由悠季・作画:Ark Performance『機動戦士ガンダム 光芒のア・バオア・クー』

榎本海月の連載

原作:矢立肇、原案:富野由悠季、作画:Ark Performance『機動戦士ガンダム 光芒のア・バオア・クー』(KADOKAWA、全1巻、2010)
初出:『ガンダムエーススペシャル』『月刊ガンダムエース』(2007〜2010)

決戦の影に見え隠れする人生

アニメ『機動戦士ガンダム』における最終決戦の地、宇宙要塞ア・バオア・クー。地球連邦とジオン公国の死力を尽くした決戦の中ではいくつもの事件が起きた。そしてその影で、ただの兵士、技術者、医者ら無名の人々もまた、命をかけて戦っていた……。
本書はドキュメンタリータッチのアンソロジーになっていて、各話で一人ずつの証言者をインタビュー形式で紹介しつつ、彼らがどんな人物で、ア・バオア・クーの戦いの時にどのような立場にいて、その時何があったのか、を物語っていく。
個人的に白眉として挙げたいのはジオンから連邦へ脱走した人々の顛末を描いた第5話だ。主義主張の違いによる分裂、理想と現実のギャップ、権力が都合の良い存在を利用する手口、そしてアニメでは一瞬で済まされた出来事の中で、多くの人生が失われたのではという当たり前の想像……世界を掘り下げる手際が大変鮮やかで、感嘆しながら読んだものだ。
インタビュー・ドキュメンタリーは堅苦しくてあまり触れたくない、エンタメ以外興味がない、という人も少なくないはず。しかし、知識や物語の幅を広げるためにも、人間観察の手段としても、ドキュメンタリーは大変に役立つ。それらの番組に興味を持つ一つの手がかりとして本書を用いてほしい。

「ガンダム」メディアミックスの世界

「ガンダム」を核にしたメディアミックス諸作品はもはや一つのジャンルと言っていいほどの広がりを見せている。最初の作品『機動戦士ガンダム』(いわゆる「ファースト」)および世界観を共通する「宇宙世紀もの」もあれば、「ガンダム」の名とコンセプトの一部を継承しつつ別の世界観で別の物語を展開する、それぞれのガンダムもある。専門の雑誌『ガンダムエース』もあるほどだ。
どのエピソードをどう掘り下げたら、あるいはどんなアイディアをくっつけたら面白いかという試みはほとんど無限と言っていいほどに繰り返されている。その試みは大いに参考にしてほしい。

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『機動戦士ガンダム 光芒のア・バオア・クー』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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