No.39 さかめがね『憂鬱くんとサキュバスさん』

榎本海月の連載

さかめがね『憂鬱くんとサキュバスさん』(集英社、1巻刊行中、2016〜)
初出:『となりのヤングジャンプ』(2015〜)

サキュバスとブラックサラリーマン

異性の性を吸収して生きる種族、サキュバスのさくまさん。早速男性・憂の部屋を訪れてそういう行為をしようとするも、向こうが全く乗ってこない。さくまに問題があるわけではない。憂は長年のブラック企業勤めで鬱病になり、性的な能力もすっかり失ってしまったのだ。
普通のサキュバスならこの時点で見捨てて他へ行っていたかもしれない。しかしさくまは違った。彼女は大変に世話焼きのサキュバスだったのだ。憂にすぐさま仕事を辞めさせ、同居して甲斐甲斐しく世話を始める。どうしても鬱々しくなる憂と心底前向きなさくまの二人暮らしが始まり、そこにポジティブだけれど無神経で憂を追い詰めるポンコツ天使のツグナエルもやってきて、日常が賑やかに……。
著者のTwitter漫画からウェブサイト連載へ繋がり、しばらくの休載を経てまた連載再開に至っている。

セクシャル表現の活用法

サキュバスが主人公であることから分かる通り、本シリーズはいわゆるエロコメ(エロティックコメディ)に分類される。実際にセクシャルなセリフは多いのだが、読んでいてもさほど「エロい」とは思わないはず。
理由の一つはサキュバスのさくまが堂々とセクシャルな発言をするとむしろギャグ的になってエロさが弱まるからだ。これは本当にセクシャルな表現をするときの逆テクニックである。つまり、隠したり、恥ずかしがったり、密やかに使ったりすることでセクシャルな雰囲気は高まるのである。
そしてもう一つは、この作品におけるセクシャルな表現が、憂が鬱病によって生命力を失っていることと対比して使われているからだ。つまり、「元気の象徴」としてのセクシャル表現なのである。エロやセクシャル表現は時代による好評不評の変化もあるし、好き嫌いも大きい分野だが、こういう使い方もあるのだということは押さえておいて損がない。

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『憂鬱くんとサキュバスさん』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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