No.38 グレゴリウス山田『竜と勇者と配達人』

榎本海月の連載

グレゴリウス山田『竜と勇者と配達人』(集英社、6巻刊行中、2016〜)
初出:『となりのヤングジャンプ』(2016〜、ただし『ウルトラジャンプ』でも2018より同時掲載)

世界を掘り下げる

その世界は剣と魔法のファンタジー世界だ。竜もいるし、勇者もいる。しかし、もっと大事なのは法と秩序だ。史実の中世ヨーロッパにあったものも含む複雑なルールが社会を支配し、安定させている。
郵便配達人として忙しく働くハーフエルフの少女・吉田もまたそのルールに縛られつつルールを運用する一人だ。しかし、人が世の中を動かす以上、何事もルール通りにはいかないもの。今日もトラブルが巻き起こって吉田の悲鳴が上がる……。
この作品の舞台は実にゲーム的なファンタジー世界で、キャラクターたちは職業レベルを持っているし、高価ではあるが復活の魔法もある。しかしその一方で実際の中世ヨーロッパにおける史実をもとにした世界の掘り下げも丁寧で、「こういう法律があるはず」「こういう仕組みになっているはず」「人々はこう考えているはず」と著者が大変に考え込んで作り上げたことがよくわかる世界と物語になっている。そのため、吉田をはじめ登場人物たちは大変に生命力が強く生き生きと己の人生を暮らしているのだが、少々言葉が汚かったりするのは玉に瑕。
結果、例えば「勇者がドラゴン退治をする時にはパーティーメンバー以外にも無数の商人や役人、さらにそのおこぼれを狙うものたちなどがくっついてきてすごい集団になる(おそらくは中世の傭兵団が兵士以外にも沢山の人々を引き連れていたことをモチーフにしている)」といった、他のファンタジーではなかなかみられない独特の風景が描かれることになる。

知識から物語を広げる

本シリーズの著者は同人誌『13世紀のハローワーク』(のちに商業化)でも話題になった人で、史実の中世ヨーロッパにも大変詳しい。その知識がふんだんに用いられているのがこの作品であるわけだが、やはり知識だけでは物語は書けない。どのエピソードをどう広げるか、あるいは自分の作り上げた世界設定にはどんな雰囲気、どんなテーマの物語がふさわしいと考えるか。その思索が重要であり、本シリーズを参考にしてほしい。

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『竜と勇者と配達人』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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