No.36 原作:今野敏・作画:渡辺保裕『任侠シリーズ』

榎本海月の連載

原作:今野敏、作画:渡辺保裕『任侠シリーズ』(実業之日本社、『とせい 任侠書房』全3巻2010〜2011、および『任侠学園』Kindle版全4巻2014・文庫版全1巻2019)
初出:『週刊漫画サンデー』(2010〜2011)

人情ヤクザの立て直し奮闘劇

東京の片隅に、小さなヤクザ「阿岐本組」がある。地元の役に立つことを第一として派手なシノギをしない彼らが、指定暴力団の下につかず独立していられるのは、組長・阿岐本がとにかく顔が広く、あちこちに義兄弟や昔を恩を売った相手がいるからだ。
しかし、阿岐本には悪癖もあった。文化的なことに目がなく、潰れかけた出版社や学校、病院などの話を聞くとついつい首を突っ込んで立て直しに取り組んでしまうのである。そうすると大変になるのが代頭(ナンバー2)の日村だ。立て直し先でいろいろ問題があるのはもちろんのこと、ヤクザがらみの事件も起きたりする。生真面目な日村は毎回自分一人で抱え込みそうになるが、阿岐本組長はもちろんのこと、組の部下や立て直そうとする会社や集団の人たちも助けてくれて、問題を解決していく――。
以上が小説『任侠シリーズ』の大まかなあらすじである。漫画化され、現在電子書籍で読むことができるのはシリーズ一巻目の『とせい 任侠書房』(原作はのちに改題して『任侠書房』)と二巻目の『任侠学園』のみだが、『任侠学園』は2019年に映画化されるなど人気も高い。小説の方も是非読んでみてほしい。

二つのアイディアを混ぜる

本書をお勧めする最大の理由は、「A +B」、すなわち二つのアイディアを混ぜて新しい物語を作る手法のサンプルとして非常にわかりやすいからだ。
阿岐本組の面々が乗り込んでいく先には、毎回その場所ならではの問題がある。会社の社長や学校長といった人々は、そこにある問題に気付いてはいるがどうにもできないでいることが多い。そこに異物が乗り込んでいくと状況がかき混ぜられつつ解決法が見えてくる。二つのアイディアが混ざっているからこそできる物語であるわけだ。あるいは、ヤクザ特有のやり方によって光明が見えていく。閉塞した状況が変わっていくのは爽快かつ人気のある展開で、その点でも楽しい作品と言える。
また、ヤクザもの特有の難しい問題として「結局この人たちは犯罪者では?」と思うと作品に入り込めない読者がいる、ことがある。この作品の場合は(存在しうるかどうかはともかく)昔ながらの害が少ないヤクザであると作中でしっかりアピールしつつ、その一方で「ヤクザと親しく付き合うものではない」などとヤクザそのものの危険性もきちんと提示してくれており、書き手のモラルが感じられる。

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『とせい~任俠書房~ 1』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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