No.35 村山慶『セントールの悩み』

榎本海月の連載

村山慶『セントールの悩み』(徳間書店、20巻刊行中、2011〜)
初出:『月刊COMICリュウ』(2011〜)

多様な種族の現代社会

その世界は私たちの現代社会とよく似ている。しかし、違う点も多い。明確に異なるのは、多様な種族が入り混じって暮らしていることだ。多くは私たち人間に何かしら要素が付け加えられたような姿をしている。角のあるもの、翼のあるもの、下半身が魚のようになっているもの、そして半人半馬――いわゆるケンタウロス(セントール)形状のもの。他にも、南極に住む蛇人間(南極人類)や、蛙のような姿をしたものたちもいる。
主人公の君原姫乃は概ね普通の女子高生だ。実は父方の血筋が旧大名家だったり、体つきがなかなかいい具合に発達していたり、そして何よりもクラスで一人しかいない人馬であるためにいろいろ目立ったりはするけれど、本人に特別なことはない。彼女の周りのクラスメートも大方は普通の高校生ばかりである。ただ、南極人のケツァルコアトル・サスサススール(通称「スーちゃん」)はいたりするけれど。
そんな彼女たちを中心に、多様な種族が入り乱れる世界の日常を描く物語――というのは、本シリーズの一つの側面に過ぎない。女子高生たちの無邪気で賑やかな日々の裏に、ディストピア的だったり陰謀論的だったりする世界の真実が見え隠れする。人種間の差別や争いが強く危険視されて思想強制所が実在していることなどがその一例だ。

日常、青春、ディストピア?

もちろん第一にはキャラクターたちの可愛らしさこそが本シリーズ最大の魅力である。いわゆる「百合」的な演出・キャラクター配置も多分に見られて、日常もの・青春ものとしてほんわかと楽しむのでも十分価値のある作品だ。
しかし創作のヒントとして読むなら、それだけではあまりにももったいない。「多様な種族が共存したら社会はどのようになるか」「政治や経済から人々の感覚まで、いろいろな影響が出るはず」と考えて作り込まれた世界は大いに参考になる

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『セントールの悩み』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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