No.34 現代:支倉凍砂・作画:桂明日香『ビリオネアガール』

榎本海月の連載

現代:支倉凍砂、作画:桂明日香『ビリオネアガール』(講談社、全3巻、2010〜2014)
初出:『good!アフタヌーン』(2009〜2013)

ビリオネアとぼんやり大学生

大学生の高遠恵が親戚の大学教授から持ち込まれた奇妙なアルバイト。それは週2回の家庭教師、ただし時給は一万円というものだった。訝しみつつも当人に会ってみれば、待っていたのは美少女の藤岡紫。しかも彼女は大金持ちしか住めないようなマンションに一人暮らしで妙に世間知らず。よくよく話を聞いてみれば、100億を軽く超える資産持ちのデイトレーダーだと言う。この時から、ぼんやり大学生が天才的デイトレーダーに振り回される日々が始まる……。
中世ファンタジー風世界で経済を描いた異色のライトノベル『狼と香辛料』で知られる著者の原作で、現代の「お金」とそれに振り回される若者たちを描くシリーズ。

専門知識をエンタメにするために

株、金融、経済……と言われると二の足を踏んでしまう人も多いかもしれないが、そんなに深いところに踏み込むわけではないので、軽い気分で読んでいい。大事なのは、ぼんやりと日常を過ごしていた主人公がヒロインとの出会いをきっかけに自分の将来やお金について考え始めることであり、成金になってしまったが故にいろいろな問題を抱えるヒロインのかわいらしさだ。専門的なところは最低限に抑えられているし、エンタメ作品としてはこれでいいのだ。
もしあなたが専門知識を元にエンタメ作品を書くのであれば、あまり知識をひけらかすと読者が物語を楽しむのに邪魔になる。かといって知識が足らないと最低限適切な知識を提示することもできない。詳しく知っているからこそわかりやすく紹介することもできる。その辺のバランスのお手本としておすすめだ。

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『ビリオネアガール』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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