ユベチカ『サトコとナダ』(星海社、全4巻、2017〜2018)
初出:「Twitterアカウント『ツイ4』及び星海社ウェブサイト『最前線』」(2017〜2018)
異文化の出会い
アメリカの大学に通うためルームシェアしている日本人のサトコと、サウジアラビア人のナダ。二人は見た目や服装はもちろん、身に付いている習慣が全然違うが、とても仲良しだ。日本とイスラム圏の暮らしや感覚の違い、そして二人のどちらにとっても異文化であるアメリカの暮らしへの戸惑い。日々新鮮な驚きや体験を積み重ねながら、時計はゆっくりと動いていく。ナダは結婚が現実味のある話題として持ち上がっていき、サトコが日本に帰る日も近づく――。
全体としてはほんわかとした雰囲気の四コマ漫画で、出てくるキャラクターたちも善人ばかり。しかし、異文化交流というリアルでシビアな問題が絡んでくるテーマなだけに、危険なこと、嫌がられること、守るべきことはしっかり描写されていて、ふわっとしているだけではない作品になっている。
青春・日常の味付け
近年多い青春・日常を描く物語では、その中でどんなテーマをピックアップするかが大事だ。この作品では異文化交流、それも「メインキャラ二人のどちらにとっても今いる場所は異国」というシチュエーション設定の妙が光る。ナダのイスラム圏文化だけを描くのではなく、アメリカ文化についても扱うことで全体の雰囲気が一辺倒になってしまうことを避けられるし、ナダとサトコが揃ってアメリカ文化に驚くことで二人の関係が近づいていく様も描ける。このようなシチュエーション設定は重要なので、覚えておいて欲しい。

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【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。