寺沢大介『喰いタン』(講談社、全16巻、2002〜2009)
初出:『イブニング』(2002〜2009)
喰いタン参上!
歴史小説家の高野聖也にはもう一つの顔がある。「食いしん坊探偵」略して「喰いタン」――大学の後輩である緒方警部の依頼で数々の殺人事件の謎を解き、真犯人を見つけ出してきた、凄腕の名探偵なのである。
その特徴は、とにかく食いしん坊であること。高級料理からB級グルメまで、とにかくなんでも食べまくる。はっきり言って人間業とは思えないレベルで食べに食べ、その中で事件の重要参考品を食べてしまうこともしばしば。だが、それは別に事件現場を荒らしているわけではない(そうとしか見えないことも多いが)。
高野は優れた味覚・嗅覚、そして食べ物と料理についての知識を活かし、食べることで謎を解くのだ。結果として秘書の出水京子を始めとする周囲の人々に迷惑をかけまくるのもいつものことではあるが……。
ミステリーの味付け
エンタメで殺人事件を主題にしたミステリーをやるにあたっては、味付けが重要だ。どんな人物に謎を解かせるのか、そのためにどんな手法や特技を用いさせるのか。本シリーズでは謎の中心として食べ物を置き、超食いしん坊の高野に謎を解かせるところに特徴がある。
食べ物最優先のエキセントリックな高野のキャラクターは実に立っている。その一方で彼が京子を始めとする周囲の人々を大事に思っているさまがたびたび描かれる(誰かが危機であるなら食べ物への執着を振り切る理性はちゃんと持っている)のが、全体としてシニカルだったり現実離れしていたりしつつも、読後感が決して悪くないことの秘訣なのだろう。

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『喰いタン』 honto 紀伊國屋書店
【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。