岡田屋鉄蔵『口入れ屋兇次』(集英社、全3巻、2015)
初出:『グランドジャンプpremium』(2015)
口入屋の仕事とは
江戸時代、口入れ屋という職業があった。今で言うところの就職斡旋所、派遣業だ。本作の狂言回し役を務める兇次はその口入れ屋だが、仕事のやり方に特徴がある。仕事を紹介して終わりではなく、徹底的にサポートをするのだ。
彼を慕って従う仲間たちも、あるいは仕事を求めて彼のもとにたどり着く人々もそれぞれにわけありで、後ろ暗い者たちも少なからずいる。それでも、いやそれだからこそ、兇次は一度見込んだ相手を見捨てないし、商売もきっちり成功させる。そして、邪魔をしてくる相手に容赦はしない――。一見するとぶっきらぼうだが、その心根にある優しさをみな知っているから、さまざまな人々が兇次についてくるのだ。
歴史ミステリーの料理法に秘訣あり
江戸時代のちょっと変わった職業や流行、社会事情などを紹介するお仕事漫画の側面と、その中で巻き起こる事件や謎を追う良質なミステリーの側面を兼ね備えているのが本シリーズの特徴である。物語の中ではすれ違いや思い違いが書かれつつ、しかし本当に大事なところで真心が通じていたり、追い詰められたときだからこそまっとうに生きている人が報われたりと、残酷な出来事を描きながらも最後の読後感が良いようになっていて、多くの読者に受けいられる展開になっている。
社会風俗の時代考証がきっちりしている一方で、キャラクターの喋り口調などは必ずしも時代言葉に統一されておらず、ところどころ(おそらくは意図的に)現代言葉も飛び出したりして、時代物を読み慣れていない読者にはむしろ読みやすくなっているはず。読者ターゲットに合わせた工夫であり、こういうところも含めて参考にしてほしい。

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【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。