No.27 馬場康誌 『ライドンキング』

榎本海月の連載

馬場康誌 『ライドンキング』(講談社、5巻刊行中、2019〜)
初出:『月刊少年シリウス』(2019〜)
シリウスKC〉、既刊5巻(2020年12月9日現在)

騎乗(ライドン)狂大統領、異世界をゆく

中央アジアの小国プルジア共和国建国の英雄アレクサンドル・プルチノフは大変な人格者であったが、一つの悪癖を持っていた。生き物・乗り物に騎乗(ライドン)することをこの上なく愛していたのだ。そんな彼がテロリストによる襲撃を受け、気づいたらそこはもう彼がもともと住んでいた場所ではなかった。異世界へ移動していたのである。しかもその世界は魔法があり、多様な異種族が共存や対立する、ファンタジー異世界だったのである。
プルチノフは知り合った冒険者たちとともに冒険に出るが、次々とトラブルが降りかかってくる。それらの火の粉を凄まじい身体能力となぜか宿っている尋常でない魔力で払っているうちに、事件がどんどん大きくなっていく。ついには見捨てられた集落やケンタウルスの部族を取りまとめて国を作ることに――大統領の冒険はどこまでスケールを大きくしていくのだろうか?

プラスアルファが大事

前半を読んでいただければわかる通り、本シリーズはいわゆる「なろう系」の、異世界転移・転生もののパターンを活用している。このようなタイプの物語では、どんな要素をプラスしてインパクトを設定するかで作品としての魅力が決まる、と言って良い。
本シリーズの場合はそれが「騎乗(ライドン)」、すなわち乗り物に乗るという要素である。プルチノフは「珍しい乗り物に乗りたい」という動機でどんどん物語を動かしていくし、普段人格者の彼が「乗れる」となるとソワソワしだすところは何だかおかしい。また、「乗る」ためには色々なモンスターをどんどん登場させることになって、それがまた作品の独自性になっている。
しかしそれだけでなく、主人公のプルチノフが明らかに実在する国家元首――ロシアのプーチンをモチーフにしていることも大きい。顔も寄せて描かれているので、是非表紙を見て確認していただきたい。プーチンはキャラクター性がネットを中心に大変人気でモデルにして面白いキャラクターであること、また実際に乗り物になったり猛獣と接している写真などが広まっているので、そのあたりも本作の発想に大きく影響を与えていると考えられる。
次々巻き起こる事件のおかげでテンポのいい展開と、インパクトのある要素。この二つが車の両輪になって、本シリーズの面白さを作っているのである。

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『ライドンキング』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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